ギネス世界記録 特別インタビュー: 岩谷徹 教授

"ゲームをつくると言うことは、人の心を知ることである。"

日本を代表するゲームクリエイターとして世界的に名を馳せ、何よりもパックマンの生みの親として知られる岩谷徹氏。長年にわたり数々の名作ゲームを生み出してきた彼は、「最も成功したコイン式業務用ゲーム( Most successful coin-operated arcade game )」のギネス世界記録保持者でもある。映画『ピクセル』の完成とパックマン生誕35周年を祝して、2015年5月21日に行なわれた「最多人数で作ったパックマンのイメージ」という記録への挑戦が行なわれる現場に駆けつけたゲーム界の巨匠に話を聞きました。

今日のギネス世界記録挑戦、351人が参加することで見事達成されることになりましたが、ご覧になられての印象はいかがでしたか?

ギネス世界記録への挑戦というアイディア自体も面白かったと思います。それに、ひとりひとりがピクセルになっているという点も、映画の特徴を活かしてる印象を受けました。若い学生たちが参加してくれて、みんなで力を合わせることで、大きなモノを形づくることができる。これがギネス世界記録のスピリットだと思い、大変感銘を受けましたね。ただ、記録が静止したものだというのは、知りませんで、個人的には、動きを演じられて、それが記録になったら、もっと良かったのじゃないかなとも思いましたね。記録のアイディア出しのところでも、関わってみたかったですね。

岩谷さんのその常にクリエイティブにアイデアを生み出していくとい姿勢あることなんですね。

もう、これは、性分なんだと思います。クリエイティブなアイディアを出して、人を喜ばしたい。そういう気持ちが常に湧き上がってしまうのです。

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さて、今回の「パックマン」について、開発した当初のことお伺いさせてください。今や世界を席巻して、シンボリックな存在にまでなっていますが、元々は、どんなところから発想されたゲームだったのでしょうか?

パックマンをつくったとき、最初に決めたことは、とてもシンプルなことでした。女性をターゲットにゲームをつくる。これがコンセプトの最初でした。あの頃、日本のゲームセンターにあったメインのコンテンツは、「エイリアンを殺せ!」という類の殺伐としたゲームがほとんどでした。つまり男の子向けのゲームが多かったんですね。僕としては、ゲームセンターをもっと明るいものにしたかったのです。そのためには女性とかカップルができるゲームが必要だと思ったのです。そのために必要だったのは、女性でも安心してできるというテーマです。それで「食べる」ということを選びました。「殺す」とか「潰す」とか、そういうものじゃなくて、女性が大好きな「食べる」というテーマで。ですから、最初は、全く野望のようなものはなくて、むしろ、「五感を刺激する」というディテールの部分を意識していたと思います。ピザの一切れを取ったら、残りのピザが食べる口の形になって、「あっ、この形だ!」と決まったものなんです。 それから、「食べる」という観点からは、「ポパイのほうれん草」にも強い影響を受けていますね。テレビアニメのポパイは、いつもやられているんだけどポパイがほうれん草を食べるとると相手をやっつけてしまう。 インスピレーションの源、いろんなものがある。あとは、ピザもそう。ピザを1枚とると、それはパックマンですからね。

いわゆる「市場」というものや「マーケティング」というものを考えてデザインしたのでしょうか?

いや、最初の段階では、そういうことはほとんど考えていませんでした。ましてや、いつか「映画になったらいい」とかは思いませんでしたね。そもそも、世界ではほとんど受け入れられないだろうと思っていたんです。もしかしたら日本でヒットすることはあっても、北米ヨーロッパでは無理だろうなと思っていました。あちらでは、刺激的なゲームが好まれるので、エキサイティングなゲームでないものは、難しいのじゃないかと思っていたのです。僕のゲーム設計では、欧米で受けるものとは正反対で、「優しくプレイ出来る」といいうことを念頭においてつくっていたし、キャラクターもかわいいデザインをイメージしていましたからね。

ところが、結果は、その意に反する形となり、日本でのブームももとより、欧米でも大人気となり、80年代のゲームというなかでは、ギャラクシアンに次ぐ人気となりましたね。そうした状況については、どうお感じになりましたか?

クリエイティブなことをやる上では、本当に励みなりましたね。人気現象が起こったとき、自分としては、想定外で、「フシギ」という感じが一番大きかったかもしれません。きっと、ご年配の人や女性でも、「私にも出来そう」と思えるシンプルなゲームだったことが、良かったのかもしれませんね。僕はゲーム設計をするときに、とにかく「 ゲーム操作」と「人の気持ち」ということを考えるようにしています。プレーヤーが、「あ、なんか、やだなぁ」と感じそうなところでちゃんと助け舟を出してあげるわけです。きめ細やかな思いやり、おもてなしの精神というものこそ、日本人の得意とすることだと思います。自分は、それをこのゲームに込めているんですね。そう考えると、自分のつくるゲームは、 結局、日本の文化に自分は基づいてるのかなと思います。

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「ゲーム」と「思いやり」という一見、遠そうものが関連しているのは、面白いですね。

ゲームというと、ついつい社会からはから批判の対象になりがちでした。でも、今はだいぶ変わってきたんですよ。だんだんと、「リハビリテーション」とか「教育」という分野でゲームが活用できるとわかってきて 、実際に使われるようになってきています。そして大学では、「社会に役立つゲーム」ということが研究されるようにもなってきました。 「遊ぶ分野」と「社会に役立つ分野」というものが重なってくると、興味の幅も広がるし、実際的な領域も広がっていくと思っています。

短絡的に考えてしまうと、大人としては、「ゲーム脳になちゃうよ!」とか、ついつい言いたくなってしまいますが、逆に社会性のあるゲームが出てきたり、あるいは、世界平和につながるゲームがつくられたり、ゲームはつくり手もプレイヤーも視点、発想を変えることで、まだまだ可能性は広がりますね。そのシンボルとして、岩谷さんのつくった「パックマン」はとても優しいキーワードに結びついていいなと思います。そこでお伺いしたいのですが、岩谷さんは、今も、新しいアイデアをお持ちだったりするのでしょうか?

はい。アイディアを考えるのは、やはり私の性分ですからね。今考えているのは、スマホから解放されたゲームです。全身がディスプレーになっていて、コントローラーが自分自身になっているようなものができたら、いいなぁ、と思うんです。スマホなどでゲームをやると、この小さなフレームの中で発想が完結してしまいがちです。しかし、このフレームをスーッとなくしてしまうとどうなるか? それをやってみたい。このアイディアの研究中の映像が大学のホームページにあります。

なるほど。なんだか、具体的なイメージはなかなか出来ないながらも、とても面白そうですね。岩谷さんがゲームづくりで大切にしていることは、やはり既存のプロダクトを超える奇抜なアイディアということなのでしょうか?

ゲームづくりで言うと、繰り返しになることかもしれませんが、「ゲームをつくると言うことは、人の心を知ることである」ということを私自身の言葉として大事にしてきましたね。 ゲームづくりは、実際に1枚の絵を描く作者とは違います。1枚の絵じゃなくて大量生産のものづくりということになります。つまり、つくっているのは、「作品」じゃなくて「商品」なので、人のことを考えることが何よりも重要になるわけです。そうなると人のことを考えることが大切になるのですね。

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それでは最後になりますが、『ギネス世界記録』の読者でありファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

「 知る」ということは発想の源にあるものです。だから、「多くのことを知る」ということによって、今度は自分の可能性が見えてきます。だから、皆さんに言いたいのは、「なるべく出歩いて、いろいろなもの見て、いろいろなものを観察してください」ということですね。


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