ギネス世界記録 特別インタビュー: ミネベア 貝沼由久社長

「精密」を超えた「超精密」という世界一の技術とは?

書籍『 ギネス世界記録 2017 』掲載!

※当エントリーは、発行時点の情報です

2009年から開発を続けていた「小型ボールベアリング」が外径1.4978mmの数値でギネス世界記録に認定されました。「小型ボールベアリング」と聞くと、ピンとこないかもしれません。「ボールベアリング」とは、機械の回転部(モーターなど)に使用される部品です。あらゆる製品に内蔵され重要な役割を果たすものです。ギネスワールドレコーズは日本が世界に向けて誇るさまざまな匠の技術を「匠Nippon」プロジェクトの中で取り上げ、紹介していきます。本プロジェクトにおいて、本格的な紹介第一弾となるのは、「超精密機械加工技術」を専門とするベアリングメーカー、ミネベア株式会社が認定を受けた「ボールベアリング製造技術」です。このベアリングを製造しているミネベア株式会社の貝沼社長にお話を伺いました。

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ボールベアリングがギネス世界記録に認定されたご感想をお聞かせ下さい。

ギネス世界記録として認定していただき私たちとしてはこんなに名誉なことはありません。というのも、まさに会社のロゴに象徴されている通りの認定を頂けたからです。弊社のボールベアリング、あるいは機械加工品の特徴は、「超精密機械加工技術」にあります。そして、ロゴマークの下には、”Passion to Exceed Precision”というステートメントがあります。Precisionというのは、「精密さ」や「正確さ、精緻さ」という意味です。 私たちは、この言葉に2つの意味を込めています。1つは「精密を超える『超精密』への情熱」という意味、そしてもう1つは「精密にこだわらずに新しい分野に進出する情熱」という意味です。今回このギネス世界記録の超精密機械加工技術、まさにロゴに象徴されている通りの認定を頂けたことで、私達の技術力を世界中にアピールできる絶好の機会を得ることができたと思っております。

精密加工のボールベアリングとは、一般の生活者には馴染みがないのですが、どんな製品なのでしょうか?

私たちが生活するいろいろな場面において、モーターなど駆動部分に使われる製品ということです。例えば、私たちの会社がもし明日操業を停止となってしまったらどのような事が起こるかというと、まずはハードディスクドライブをつくることが出来ません。するとコンピュータの機能が全て停止してしまいます。

また、切符が改札から出てこなくなります。 切符を入れた途端にシューッと向こう側に移動するのは、切符がベアリングの上を通っているからはじめてできることなのです。それから、銀行のATM端末には1台につき約800個の私たちが加工したボールベアリングが含まれています。 だから、みなさんが銀行からお金を下ろすときに絶対に1枚多く出てきたり、逆に少なく出てきたりすることはないでしょ? それは、超精密な機械加工部品が中に入っているからこそ成せるワザなのです。陰に隠れて世の中を支えている存在。それが私たちのつくるボールベアリングという製品なのだろうと思います。

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ボールベアリングという製品カテゴリーにもライバルはいると思うのですが、ミネベアが他社に比べて強みとしている点はどこになるのでしょう

私たちの一番のポイントは、超精密加工技術で精度の高いボールベアリングを、毎月ものすごい数量供給できることです。次に、製造業としてこの大量生産技術を持ち、生産ラインを構築して、それを一斉に同じクオリティでつくれること。さらに、その技術の質、生産ラインを継続運用していく力があること。この3つが揃っていることだと思います。 

さらに、当社のもうひとつの電子機器部品の主力製品である例えば携帯電話のバックライトという部品は、薄いプラスチックでできている導光板と呼ばれる部品が付いています。厚さが0.3mmより薄いプレートは、誰でもつくろうと思えばつくれるものなのです。ところが、それを毎月3,500万枚つくるとなるととても難しいのです。要するに他社ではできない「量」の供給ができるということも重要だと思います。

今回のギネス世界記録においても「市販されている」すなわち「量産」という誰にも簡単に真似できないというところを「Commercially Available(商用販売可能なもの)」ということで認定させて頂いているわけですが、この量産を可能にする秘密は何でしょうか?

やはりそこは人の能力なのだと思います。マネージメント能力というよりも、全体の力です。それも歴史に裏打ちされ、長い間に確立された全体の力です。これはすごいと思います。 本来、私たちの仕事はまず「モノ」ありきです。小さいものをつくるという話があれば、それに触発されて技術者が努力をし、それをどうやってつくっていくのかという事になります。そういう話がどんどん進展していくわけです。 今回の「外径1.5mm」ボールベアリングに挑戦する前に、時計用ベアリングとして「外径2.2mm」のボールベアリングを製造していたのですが、このボールベアリングの幅は、実は1.5mmボールベアリングの幅よりも狭いものでした。「モノ」をつくることができるという技術への自信が根底にあって、次の「アイディア」が生まれるわけです。 今回、ギネス世界記録に認定して頂いた「1.5mm」サイズをつくってみたのも、社内で「挑戦したらどうか?」「挑戦したい!」という声が上がってきて、「一度、公式にチャレンジする価値はあるはずだ」となって、挑戦へと発展したのです。2.2mmはお客様があってつくったものでしたが、こちらはお客さまのないところで、「限界に挑戦してより小さいものをつくろう!」という、人のアイディア、そして情熱から生まれたものです。その情熱が先行して、うまく時計の方でニーズが出てきて、それなら量産しようという形に結びついているわけです。常に誰かが生み出した「ひとつのモノ、ひとつのアイディア」という土台があって、その次の発展形が生まれる。この土台の源は「人」であり、私たちの成功の秘密と言えば、それは「人」なのだろうと思うわけです。

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企業でモノづくりをする場合、しかもそれが「世界一になるような技術」である場合、それぞれの能力、職人気質、主張をチームとしてまとめていく必要があると思います。チームワークづくりで大切にされていることを教えて下さい。

そこは指示系統の中でしっかりした流れを説明しながら、その枠組の中で自由にやる余裕をもたせるという事だと思います。はっきりした目的+個々の思いつき。その思いつきをどんどん吸収していって、形とするのが基本です。

意見をぶつけられる環境があるわけですね。

それはもう、そういう風に作っていますから。現場サイドから意見が来て、よく技術優先などと言うこともありますが、ベアリングにおいては技術優先というよりも現場優先の方が強い職場です。ですから、現場でアイディアが出てきて、それが技術として具現化していくという形ですね。それがうまくマッチした状況にはなっていると思います。

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"匠のものづくり"をどう世界と共有するか?ということに大きな興味があります。ミネベアは海外拠点もあると思いますが、習慣の違う人々とどう技術やアイディアをシェアしているのですか?

実は、こと仕事については、あまり違いを感じるようなことはないのです。私たちのやっていることを、そのまま伝える。彼らも日本にトレーニングに来て一緒にやりますし、日本のものづくりのノウハウはそっくり移していきます。 スタートはそうやってノウハウ移管していきますが、今は逆に向こう側で、より多く生産をこなしたり、新しい製品をつくったりして、それをまた日本が取り入れる。その相互のモノづくりの繰り返しです。その根底として、必ず私達の発想を伝えてありますし、現地従業員のリーダークラスはほとんど日本人の感覚を理解しています。その上で、私たちのつくった見本に対して、より現地に合わせて使いやすくなるようなアイディアを出していく。 しかし、昔はこうではありませんでした。この工場のノウハウはこの工場だけのもの。他には絶対に漏らさない。でもそれではまずいんですよね。やはり吸い上げたものを全員で共有する。すると色々なところで、同じ目的でも、違うやり方が出てくる。海外と国内では、食生活は別でも、仕事に関してはほとんど同一レベルです。

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なるほど。それでは、最後に、世界におけるモノづくりにおいて、日本が独自に持つ強みは何だと思うか、教えて下さい。

それはやはり、「アイディアを出すために頭をひねる」のではなく、「実際にモノをつくる手を動かす」という点にあると思います。アイディアというのは、世界中どこでも色々と出てくるものです。いろんなアイディアを出してきますし、個々にいろんな事を考えています。そのアイディアをうまく吸収して、手を動かしてつくる。その集中力こそが、日本の素晴らしさなのだと思います。 それから、日本人は、実際のモノづくりだけでなく、そこにこだわりがある。これは、サービスについても言えることかもしれません。日本人は、いい意味で粘り強さがあって、最後の最後まで、もっと良くしようという探究心、それを裏打ちする努力の姿勢がある。それが、モノやサービスとして形になっている。そこが日本のアイデンティティなのではないかと思うのです。

素敵なお話をお聞かせ下さり、どうも有難うございました。世界一小さなベアリングが、日本だけでなく、世界中に伝わって、世界の人々の生活を支えていってくれると良いですね。

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2016年9月8日発売『ギネス世界記録2017』には、様々な記録を収録しています。詳細は、コチラへ。

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