Simon Kindleysides during walk wearing an exoskeleton suit at London Marathon 2018

2018年4月22日。4万人もの参加者がロンドンマラソンのスタートラインに立ちました。その中にいた一人が、ギネス世界記録に認定されました。

それはイギリス在住、34歳のサイモン・キンドリーサイズさん。サイモンさんは42.195 kmを外骨格ロボットを使って完走し、36時間46分のタイムを残し「外骨格ロボットを使って完走したマラソンの最速タイム|fastest marathon distance in a robotic walking device」に認定されました。

彼がこの大きな記録に挑戦するのには、ある理由があったのです。

サイモンさんはかつてプロのダンサーをしながら、レストランのマネージャーとして働いていました。しかし2013年、脳腫瘍が原因で下半身の感覚を失ってしまったのです。

4か月の入院生活後、足が動かせないため2階にあった自分のアパートに戻る事ができませんでした。その後も発作や脳卒中を繰り返しました。

それでも彼は闘い続けました。

「誰かに"君にはできないよ”と言われたら、そいつをムカつかせるためにやって見せるんだ。例えば2015年、ハンドサイクルでロンドンからパリまで行ったんだ。」

そして2017年、サイモンさんはReWalkという外骨格ロボットに出会い、階段をのぼったり外に出たりする事ができるようになりました。そこで4年ぶりに裏庭に出たのです。「(撮影した)動画では、"芝生を歩いてる”と叫んでますね。芝生を踏んでいる感覚はないけど、下を見ると確かに自分の庭を歩いてるんだ。その時の感情は言葉では表せないよ。」

「その前にも他の外骨格ロボットを使って、それらにもメリットがあるんだけど、このロボットは僕に活気を取り戻してくれた。自分の子どもたちと散歩する事だってできるようになった。」

外骨格ロボットは車いすの使用を完全に取り除くものではありませんが、発作は減り、尿や便、姿勢などが良くなり、サイモンさんの健康状態を大きく改善しました。そしてサイモンさんは、外骨格ロボットとの出会いをきっかけに、あるアイデアを思いつきます。「マラソンを完走しよう。」

数か月後、サイモンさんはロンドンマラソンのスタートラインに立っていました。彼の足には、ReWalkが貸し出した外骨格ロボットが。およそ10万ポンド(約1,300万円相当)もするロボットを購入するためのファンドレイジングをするために、マラソン参加を決めたサイモンさん。マラソンが始まる前に、テレビの取材でその話をすると、驚く出来事が起きたのです。

London Marathon start Simon Kindleysides

「9時30分に取材を受ける予定でしたが、テレビ局が時間を間違えていたのか、実際は11時30分でした。11時30に出演して、借りているReWalkのロボットの話と、資金集めの話をしたんだ。そうしたら、朝食をとりながらたまたまその放送を見ていた人がReWalkに電話をかけて、ロボットの代金をすべて払ってくれたんだ。」

Simon Kindleysides marathon walk

マラソンは、完走まで36時間という過酷な道のりでした。途中からはマラソン大会用に閉鎖されていた道路も規制解除され、車や通勤者などで前に進むのが困難になる事態も。そしてサイモンさんによると、特につらかったのは、ペースを上げられなかった事。1マイル(1.609344 km)進むのに必ず48分かかったのです。

しかし監視人や理学療法士、ロボットのメカニックの助けを得ながらマラソンを続けました。また、一般の人たちも途中一緒に歩いたり、住民が敷地を休憩所として貸してくれたりもしたそうです。

Simon Kindleysides marathon finish

4月23日の夜10時46分。サイモンさんは応援に来た人たちや警察官たちの声援を受けながら、フィニッシュラインをこえました。完走に8時間以上かけてしまったため、ロンドンマラソンのメダルを得る事はできませんでしたが、脳腫瘍のチャリティ「The Brain Tumour Charity」のための寄付金2万3,000ポンド(約300万円相当)を集める事ができました。さらに、同じチャリティの寄付金を集めていたランナーが、ロンドンマラソンのメダルをサイモンさんに譲りました。

Simon Kindleysides and his team. From left to right: Sarah Webster - spotter, Tina Smart - PA and spotter, Colin Kindleysides - Simon's dad, Simon, Jon Graham - physio, Wayne Howe - spotter, Sarah Moore - Brain Tumour Charity Challenge Events Manager

脳腫瘍、ロボットとの出会い、マラソンへの挑戦……。サイモンさんは過酷な道を歩んできました。その中で彼の心を動かしたのは、自分の子どもたちでした。

「2歳の娘は車いすが空くと持っていって遊ぶんですが、僕が必要になると持ってきてくれます。私がソファから車いすに移動したい時、息子も立ち上がって助けてくれます。私はお願いしていないのに自然と助けてくれる姿には、ほっこりしてしまいます。この前息子とケンタッキーにいた時、"その痛みを僕が取り除けられたらいいのに。科学者になれるなら、お父さんを歩けるようにしたい"って言ったんだ。」

Simon Kindleysides record certificate

マラソンでギネス世界記録に認定されたサイモンさん。彼はすでに、山を登ったり、世界で最も高いビルを登ったりする事も考えているそうです。

しかし今は、書籍「ギネス世界記録2020」のページを開く事を楽しみにしているそうです。

「ノリッジという町から来た小っちゃい男が、世界中で読まれている本に載るなんて……本を開けて自分が載っているページを見たら、泣いてしまうかもしれません。」