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今日は世界ペンギンの日。制定されたのは、南極のロス島にあるアメリカの南極観測基地「マクマード基地」が、毎年4月25日あたりになるとアデリーペンギンが突然大移動を行うのを観察した事がきっかけでした。

ちなみに南極はこの時期に冬を迎え、気温が低下するのはもちろん、日中もほとんど日が当たらなくなります。海水の表面も凍りつき、ペンギンたちが餌を得るには、遠くまで旅をしなければいけなくなります。

そこでアデリーペンギンたちは、比較的暖かく主食のオキアミ類も多く生息する、北部へ移動します。南極では春となる10月下旬から11月になると、アデリーペンギンたちは戻ってきて繁殖をします。

マクマード基地の研究者たちは、この"大移動"にちなんだ記念日を制定する事に決めたのです。現在「世界ペンギンの日」はあらゆる種類のペンギンに対する理解を深め、生存に立ちはだかる課題について考える日として、世界中で認識されています。

ペンギンの専門家として知られるダイアン・デナポリさん

ペンギンを考える大切な日を記念して、「ザ・ペンギン・レディー(The Penguin Lady)」こと、ダイアン・デナポリさんにインタビューを行いました。ダイアンさんは2000年7月1・2日、南アフリカで15,000~20,000のペンギンを空輸で救護し、貨物船の原油流出から救いました。その壮大なレスキューは、「最大のペンギンの空輸|largest penguin airlift」としてギネス世界記録に認定されています。

2000年の原油流出事故で、石油まみれになったケープペンギン

ーーまずペンギンに関わる活動をする事になったきっかけを教えてください。

実はちょっとした偶然があったんです。32歳の時、獣医看護師を目指して大学に戻りました。一時期ハワイでイルカの世話などをしていたので、看護師としてイルカと関わる仕事がしたいと思っていました。最終学年に入って、ボストンのニューイングランド水族館のペンギン部で4か月のインターンをする事にしました。ペンギンが展示されたエリアに入ってペンギンたちを見たその瞬間、私ははまってしまいました。

驚いたのはペンギンそれぞれに性格があった事でした。何千羽もの集団で生息する事が多い動物なので、そこまで個性が強いとは思っていなかったのです。それを知って、もう少しそばにいて、ペンギンたちについて知ろうと思いました。

大学卒業後、もう1年インターンを続けたいと手をあげ、その後1997年にようやく仕事に空きができ、就職する事ができました。

ーーペンギンと長い間接してきましたが、今でも彼らに驚かせられる事はありますか?

ペンギンと関わって9年ですが、面白い行動や性格に驚きが耐えないですし、飽きる事もありません。

ーー2000年に発生した原油流出事故のニュースを聞いた時の事を教えてください。

恐怖を覚えました。事故は3つあるケープペンギンの繁殖地の2つの間で発生しました。世界中に生息するケープペンギンの半分あまりが生息する場所です。原油流出の規模を見れば、ペンギンにとてつもない悪影響を及ぼすのは明確でした。当時、ケープペンギンはIUCNで「危急」とされていたので(現在では「危急」)、人が介入しないと、生存が危ぶまれる状態でした。

私も、油まみれになった鳥たちを助けに南アフリカに行きたいと考えました。幸い私が働く水族館は直ちに2人のスタッフをケープタウンに派遣し、救護活動を援助する事を決めてくれました。


ーー南アフリカに到着した当時、どのような状況でしたか?

アメリカの動物園や水族館でペンギン飼育を担当している8人のメンバーで構成された私のチームは、事故発生後1週間で現地に到着しました。対策は道半ばで、ソルト・リバー・ペンギン仮避難所もできたばかりで、油まみれになった鳥たちが次々と運ばれ続けていました。

現地の海鳥救助センター「SANCCOB」は事故から2日で満杯となり、一時的な施設を増やす必要があったのです。私たちが到着してから数日で、ロベン島から20,000のペンギンがこの2つの施設に到着しました。あまりもの数に建物が膨らみそうなほどでした。

私たちはまずソルト・リバーに配属されました。ケープタウンに着くまで、私たちがどのような役割を担うのか見当もつきませんでした。避難所に到着すると、チーム全員は監督をする立場につきましたが、現場はかなり混乱していました。到着してから1日後、今度は原油がダーゼン島にまで到達しました。およそ20,000羽のペンギンたちを、油まみれになる前に避難させる必要がありました。避難されたペンギンはポート・エリザベス沖から800 km のきれいな海に開放されました。

Volunteers herding oiled penguins on a beach on Robben Island

これだけ多くのペンギンが避難・救助されるのは前代未聞。油まみれになってしまったペンギンたちをどれだけ助けられるかは、当初想像できませんでした。過去にあった大規模なペンギンの救助もケープタウン付近でしたが、その時の救助数はは私たちが参加した時の約半数。それでも救助されたペンギンの半分は死んでしまいました。

ーー一緒に救助活動を行っていたボランティアたちについて教えてください。それぞれどのようなバックグラウンドをお持ちでしたか?

彼らは本当に素晴らしかったです。12,500人以上のボランティアが救助センターに集まりました。ボランティア経験が全くない人たちで、ブルーカラーやホワイトカラー、主婦や学生、そしてホームレスの方まで来てくれました。

ほとんどはケープタウンの人たち、そして数百人はヨハネスブルグから来た人たちでしたが、南アフリカに旅行に来ていた海外の人たちも参加していました。彼らは原油流出の話を聞き、旅行のプランを中断させてペンギンを助けに来てくれたのです。こんなにまで人のやさしさや温かさを感じた事はありません。チームメンバーが記者にボランティアの方々について聞かれると、答えている途中に、感謝のあまり涙が溢れてしまい、言葉に詰まっていました。

ーー油まみれのペンギンはどのようにして洗うのですか?

一番良いのは、野生動物救助のプロにお願いする事です。油まみれになった鳥を洗う前に、24-48時間新しい環境に慣れさせる必要があります。洗う行為は動物にかなりのストレスを与えてしまうからです。慣れさせる時間を設ける事によって、ストレスを軽減させる事が重要なのです。

救助センターでペンギンが洗われる様子、おいしいお魚でエールを与える 

洗い終わるったら、脱脂剤をスプレーして30分おいて、重い油が分解されるのを待ちます。それが終わったら温かいせっけん水に入れて、羽の奥まで浸透させて油が取り除かれ、水が透明になるまで続けます。高圧のホースを使って羽からせっけんを取り除き、ヒートランプの下で乾燥させます。羽の防水機能が戻るまで待って、ようやく野生に戻す事ができます。

ーーどのようにして野生に戻しましたか?

ダーゼン島からポート・エリザベスに運ばれて海に戻された20,000羽以外に関しては、ミルナートンをはじめとしたケープタウン周辺のビーチで放ちました。

きれいになったペンギンが海に戻される様子

ペンギンは他の鳥と同様、帰巣本能があるので、ほとんどは本来の繁殖地に戻りました。ロベン島はケープタウン湾から3.2 km で、ダーゼン島はそこからさらに32 km ほど先にあります。

ーーこのような事故が発生しないような対策は十分にとれたと考えていますか?

2015年1月から、アメリカ海域の石油タンカーは二重船殻である必要があるので、事故防止につながっていると思います。しかし二重船殻でも沈没して原油を流出させるリスクも十分あります。

こう言った事故の多くは人為的ミスで、2011年3月にナイチンゲール島に貨物船が座礁し、何万羽ものイワトビペンギンを油まみれにした事故は、クルーの判断ミスが引き起こした事例です。防止ができた事故で、起きるべきではなかった事故でした。

もう1つの重大な問題は、船底にたまる汚水の違法排水です。本来港で行う事ですが、コスト削減のために夜中に海上で行ってしまうケースがあります。これらの「謎の汚水流出」が、毎年何百何千ものペンギンや海洋動物に悪影響を及ぼしています。船の監視を強化して、このような違法行為を抑制させなければなりません。

そしてケープペンギンなど、種類によっては航路や港の近くに移動したり、食べ物を探したりします。

同じく南アフリカに生息するマゼランペンギンもそうで、ペンギンたちが季節の境目に大移動する4,830 km のルートが、航路とかぶっています。そのため何年もの間で何万ものペンギンが油まみれになってしまっているのです。研究者のDr P Dee Boersmaは、マゼランペンギンにチップを付けて移動情報を収集する事でペンギンの移動ルートをデータでつかみ、関連機関に航路の移動を求める事に成功しました。その後油まみれになるマゼランペンギンは劇的に減っています。

ーー私たちがペンギンから学べる事は何ですか?

彼らは私たちにとって、炭鉱にいるカナリアのような存在です。ペンギンの数が劇的に減っているという事は、環境が悪化していて、リスクが高まっている事のサインとなります。

ペンギンの数は打撃を受けています。その原因は地球温暖化、乱獲、生息地破壊、汚染などさまざまです。

かの有名な海洋学者、シルビア・アール博士は「海は私たちの生命維持装置」だと言いました。その装置を私たちは壊しています。ペンギンの訴えに耳を貸さなければ、海や環境の悪化はやがて私たちにも悪影響を及ぼす事になるのです。