2018年6月16日。ジェニー・グラハムさんは自転車にまたがり、ベルリンのブランデンブルク門を後にしました。それから約4か月……世界を一周してまたベルリンのシンボルの1つである場所に戻り、ギネス世界記録保持者となりました。
記録タイトルは「自転車で世界一周をした最速タイム（女性）｜fastest circumnavigation by bicycle (female)」。ヨーロッパからアジア、オセアニア、北アメリカなど、合計1万8,000マイル（28968.192 km）の道のりを124日11時間で走破しました。
「家族や友人に伝えた時、きっとほとんどの人たちは"無茶な事を"と考えていたと思います。でも、私が本気だという事に気づいてからは本当に支えてくれました。」とジェニーさんは振り返りました。
ジェニーさんはこの旅に向けて1年間、仕事の合間を縫って週20時間のサイクリングなどの体力強化やビザの申請などを行って準備を進めました。
「スタート地点につくのが一番大変な事だったかもしれません。スタートしてしまえば、自分が大好きな自転車に乗り続けるだけでした。」
ベルリンを出るとポーランド、リトアニア、ラトビアを含む東ヨーロッパを通過し、ロシアへ。そしてモンゴルを経由して中国に入りました。中国を横断したら空路でオーストラリアの西部にあるパースへ行き、オーストラリア大陸を横断。そこからニュージーランドへ飛び、南島から北島へとペダルをこぎました。
ニュージーランドを制覇すると、次はアラスカ。カナダを横断しハリファクスまで自転車で走破しました。そして最後にポルトガル、スペイン、フランス、ベルギー、オランダと、ヨーロッパを横断し、ブランデンブルク門に戻ってきました。
長い道のりでは、あらゆる困難が待ち受けていました。そのなかでも特に影響が大きいのは天候だったと、ジェニーさんは振り返ります。
「想像できるあらゆる天気に見舞われました。真夏のゴビ砂漠では水分補給の問題がありましたし、一方でオーストラリアやニュージーランドは冬真っ只中だったのでかなり寒かったです。スコットランド出身なので寒さや雨には慣れているつもりでしたが、寒い雨のなか毎晩1人で寝るのはかなりエネルギーを消耗しました。またカナダでは、2回も竜巻に遭遇しました。」
ジェニーさんによると、サイクリング中で最もハラハラしたのは、シベリア横断道路だったとか。大型トラックが次々と猛スピードで走行する道路を自転車で通行しなければならなかったのです。
「とても危険なのに、迂回する方法が無いので、夜間に移動する事にしました。朝の8時までこぎ続けて、寝場所を探し、また午後3時くらいからサイクリングを再開するようにしました。これを2,000 kmほど続けました。この道のりが、旅を続けるのを困難にさせた唯一の区間でした。」
さまざまな困難があっても、ジェニーさんを止めるものは何もありませんでした。
やめたい、諦めたいと思った日は全くありませんでした。旅が始まったらそれが最後。やり遂げる事しか考えていませんでした。
ジェニーさんが達成した記録で注目すべき部分は、食料やスペアパーツなどの支援を行うチームなどを全く使わず、1人で旅を行った事。チェーンオイルやスペアパーツなどを携帯して旅を続け、必要に応じてサイクルショップに寄っていました。
「ニュージーランドの北島でシフターがだめになってしまいましたが、次のサイクルショップを見つけるまでこぎ続けました。そのサイクルショップにたどり着いたのはアラスカでした。動くなら乗り続けるしかありません。」
4か月もの間、ほとんどの時間をサドルの上で過ごしたジェニーさんですが、体調が悪くなったのは、ニュージーランドで風邪をひいた時のみでした。しかしその時は頭がクラクラして、サイクリングにも大きく影響したそうです。
路中、オーストラリアではカンガルー、カナダでは熊に遭遇するなど、意外な体験をしたジェニーさんは、自転車をこぎ続けて4か月、この壮大な冒険を始めたベルリンに戻ってきました。
ベルリンをスタート地点にしたのは、ジェニーさんの息子が理由だったとか。
「ルートを計画している時、息子にも見せていたんです。旅が終わった後に楽しめる場所はどこだろうと2人で考えていたら、息子は今回のルートで最も大きな街だから、ベルリンがいいと言ったんです。実際自転車にやさしい街ですし、ベルリンをスタート地点にして良かったです。」
ゴールまでの最後の数時間は、他のサイクリストも合流し、ジェニーさんにエールを送りました。
「門が見えてきて、その反対側には私が愛してやまない人たちが待っていると思いました。門を通ると、声援に囲まれて、スコットランドの旗が見えました。」
女性サイクリストにインスピレーションを与える団体「Adventure Syndicate」の代表でもあるジェニーさん。ギネス世界記録保持者となった彼女は、冒険をする人たちにこうアドバイスをします。
やり遂げる事が大切です。始めるところが一番大変で、普段の生活と両立しながらスポンサーを探したりしなければなりません。プライベートの時間もほとんど犠牲にしなければなりません。それらを全て乗り越えれば、後は実際のチャレンジのみ。自分がずっと好きだった事をやり続けるだけです。
