イギリス・サマセットにある、カニン・クルセード・ビヘイビア&デイケアセンターで、スティーブ・ベイリーさんは何百頭もの犬の訓練を行ってきました。ここは同氏が他界した父親の遺産を元手に開いた、犬の心理を学ぶ施設です。
スティーブさんにはたくさんの逸話がありますが、中でも輝かしい成功と言えるのは、ボーダーコリー犬・ネオとのお話でしょう。ネオが田舎の農場からスティーブさんの元へやってきたのは、生後8週間の子犬の頃でした。
ネオのような屈強なボーダーコリー犬は、ありあまる力を持っています。そしてプロのトレーナーの手に委ねれば、その力を更に引き出すことが出来ます。どうすればペットが喜ぶかを知り尽くしているスティーブ・ベイリーさんは、ネオの持つ力をスラロームやジャンプへと結びつけていきました。
やがてトレーニングの効果は、10連フープ/タイヤスラロームで8.58秒という記録となり、ギネス・ワールド・レコーズ・アメージング・アニマルブックにも収録されました。
スティーブさんは一体どのようなトレーニングをしているのでしょうか?直接伺ってみました。
「ネオを買ったのは、私の父が他界したすぐ後のことでした。その事が、私とネオの結びつきを強くしているのだと思います。その頃、ネオは私の生きがいになってくれましたし、それが今に至るまで続いているのです。」
「彼がまだ子犬の時は、飽きるほどのトレーニングをしました。ネオの吸収力は素晴らしく、私が教えることをなんでも理解し、すぐにやってのけました。
私がこれまでこのデイケアセンターで訓練し、共に過ごしてきた犬の中で、ネオと比べられる犬はいません。ネオはそれほど特別なのです。「基本的な技については、ごく初期からやっていました。生後6ヶ月になる頃には、ジャンプ・輪くぐり・ウィーブ・シーソー・トンネルなどの基礎技を覚えていました。
1才になった頃、ネオは既に相当優れた運動神経を発揮していて、私はその機敏さを”パルクール”の動きへと導こうと考えました。
ネオの高いエネルギーや知性をキープすると同時に、新しいことを覚える意欲を持つようにと仕向けました。」
「この技はジャンプ、輪抜け、ウィーブのコンビネーションから出来ています。それぞれの基本技は習得していましたので、あとはそれを組み合わせたということです。
練習ではターゲットスティックを補助的に用いました。ターゲット練習ではまず犬が棒の先端にタッチするようにします。
初めは棒の先に犬の大好物の匂いをつけます。犬がその匂いに釣られて、鼻で触れたら、クリックを鳴らしご褒美の餌を与えます。
これを繰り返した後、棒を犬から離していくようにします。今度は犬は移動した上で棒に触れます。成功したら同じようにご褒美です。このターゲット練習をマスターすると、ターゲットスティックをガイド役として、障害物やポールのすり抜けの誘導に使うことが出来るようになるのです。」
「フープスラロームでは、最初このターゲットスティックを用いて、ネオにどのフープを、どちらの方向からジャンプするべきなのかを教えます。5つのフープを誘導したら、元に戻るように誘導します。成功すればクリックを鳴らしてご褒美に彼の好きなボールを与えました。
ここまで覚えたら、ターゲットスティックの使用は止めて、スタート・フィニッシュラインを覚えさせます。ネオはこれも問題なくこなしました。ネオが一定スピードをキープできるように、私がガイド役となり、横をついて走ります。フープスラロームを素早く抜ける為に必要なのは、スピードよりも技術です。」
「犬の訓練で最も大切なのは、常に犬がトレーナーと共に楽しめるようにすることです。正確なタイミングで成功報酬を与える動機づけが必須と言えるでしょう。
犬の精神面や体力面の限界を超えるようなことは決してさせてはいけません。繁殖、年齢、知力、サイズ、体重など、個々の犬の特徴を的確に考慮する必要があります。」