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あるシンデレラのコレクションが、日本でギネス世界記録に認定されました。「最大のシンデレラコレクション|Largest collection of Cinderella memorabilia」はその名の通り、コレクションの点数を競うもの。今回認定された記録は、908点という驚愕の数でした。

認定されたのは、デザイナーの川田雅直さん。普段は女性向けのブランド、ショップの店舗設計や展示会のブース、ウェブサイト制作など、あらゆるデザインに携わっている彼が、なぜ膨大なシンデレラのコレクションを持っているのか……その真相に迫りました。

『自分では描けない世界』にあこがれて

川田さんがコレクションを始めたのはおよそ30年前。もともとコレクター気質だった彼は、1953年のエリザベス女王の戴冠式グッズや、国産の手巻き時計など、コレクションしているものは多岐にわたります。しかし絵本を集めたのは、デザイナーとしての仕事が理由でした。

「絵本は間違いなく資料として集めていて、それは自分が描けないもの、見た事がないもの、作れないものがそこにはあって、それに魅力を感じるんです。」

シンデレラのみならず、白雪姫や眠れる森の美女、オズの魔法使いなど、ありとあらゆる絵本を集めてきた川田さん。数十年間集め続け、いつのまにか膨大なコレクションとなっていたのだとか。しかしそれは川田さんにとって、あくまでも参考資料。誰の目にも留まる事はありませんでした。

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「買ってある程度脳に入ったらそこで終わってしまうので、後は段ボールに山積み。その段ボールは何十箱と倉庫に増えていきました。」

しかしあるきっかけで、段ボール箱に眠った絵本たちは人々を魅了する事になります。

絵本の『目覚め』

それは川田さんが14年ほど前に始めた成育医療研究センターでのボランティア活動を行っていた時の事でした。海外経験のある小児科医のドクターから発せられた次の言葉が、ターニングポイントとなったのです。

「医療技術が良くなってきてより多くの子どもの命を救えるようになったが、その後のケアが海外にくらべ日本はまだまだ弱い、海外には大きな病院の近くにはその後のケアをすることができるホスピスのような施設があり、日本にもそのような施設を作って、退院後もずっと支えていかないといけない。」

しかしそのような施設を国が直ぐに進める事はできない……「どうすればいいのか」と考えた時に1つのアイデアが浮かんだのです。

「まずはいろんな方に、子ども達やそのご家族の大変な思いを事を知ってもらわなければならない。私は100年前のシンデレラの絵本を何百冊と持っていたので、それを使って美術館やイベントで展覧会をして集客する事ができれば、告知ができたり、入場料を寄付したりできる。そんな活動ができたら素敵だよね、という話を先生としたんです。」

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そして2015年に始めたシンデレラの展示会。ちょうどディズニーが実写映画版『シンデレラ』を公開した事も功を奏し、多くの来場客を集めました。以後、日比谷図書文化館、東京富士美術館、諏訪湖のSUWAガラスの里美術館、軽井沢絵本の森美術館など、毎年展示を行うようになりました。

ギネス世界記録への挑戦

川田さんが自身のコレクションでギネス世界記録に挑戦したのは、2016年の秋ごろ。展覧会を監修した日本女子大学の馬場先生が「これだけの数を持っている人はいない。試しにギネス世界記録を試してみたら」と冗談半分に言われたのがきっかけだったとか。しかし認定作業は一筋縄ではいかなかったと、川田さんは振り返りました。

「最初は簡単に取れるんではないかと思っていました。申請の段階では既に展覧会をやっていたので、コレクションの資料も万全に出来上がっていました。それをそのままギネス世界記録に送ったらそのまま戻されてしまいました。大学の先生とか、専門の方々に立ち会ってもらって、その人たちの確認のもと1枚1枚めくった映像を送らないと審査ができないと言われました。」

その後も細かいチェックが入り、3回目のやり直しでようやく認定。認定の連絡が来た時は本当に嬉しかったそうです。「きつかったですが、資料を見直す事ができましたし、何よりも公式に認めていただけたのが嬉しいです。」

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ちなみに認定されたのは、タイトルがシンデレラのもののみ。シンデレラが含まれている作品集などは含まれていません。「それが含まれると1,200~1,300点くらいの記録になったかもしれない」と川田さんは推測します。

歴史を駆け巡るシンデレラの多彩なまなざし

取材の際、川田さんのコレクションの一部を見せてもらいました。絵本はもちろん、レコード、映画のフィルム、(ロウソクの炎を使う)ランタンスライド、そして企業の広告にまでと、その内容はまさに様々。1つの小さな部屋に並べられたメモラビリアを見渡すだけで、200年以上もの間あらゆる形でシンデレラが伝承され、魅了されてきたかが分かります。

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絵本を比べる事ではっきりするのは、画で描くシーンやその描写のしかたで、シンデレラという物語の印象が大きく変わるという事。ある絵本ではシンデレラのお姉さんたちが強烈な絵面で描かれていたり、ほかの絵本ではシンデレラがお城を逃げる際、「次のチャンスにつなげるため」にわざと靴を落としていっているかのような顔をしているます。このような違いは、「大人が見たら面白いと思う」と川田さんは言います。

各国での翻訳から時代をのぞく事もできます。例えば1900年に坪内逍遥が翻訳したシンデレラでは、当時の日本人は知らないであろう魔法使いや舞踏会が、弁天様や園遊会になっています。その後1920年代には菊池寛が、1960年代には川端康成がシンデレラを翻訳しており、時代を通じて物語がどのように伝えられてきたかを垣間見る事ができます。

シンデレラの本当の美しさ

あらゆる物語の絵本を集めてきたのにも関わらず、数えてみると他の4倍もあったシンデレラ。それはシンデレラが、親がより子どもに伝えたいストーリーであったからではないかと、川田さんは言います。

「白雪姫や眠れる森の美女はもともとお姫様です。お姫様が苦労して幸せに戻るより、お母さんが亡くなっていじめられながら自分から幸せを勝ち取っていくストーリーの方が、子どもたちにも伝えたい物語として世界で一番広まったのではないでしょうか。」

今にいたってもシンデレラが語り継がれているのは、物語の中のシンデレラの志や哲学であって、それを教えたいからだと思います。

日本では「シンデレラがきれいだから」「魔法使いがいたから」幸せになれたと思っている人も多いようですが、絵本では必ずしもきれいに描かれているわけではありません。また魔法使いが助けてくれないシンデレラ物語も沢山あります。

シンデレラは「くじけない」「諦めない」「誰にでも優しく」「自分を信じる」「笑顔を絶やさない」「すぐに行動する」「素直に伝える」など考え方や行動、習慣が幸せを導きました。このストーリーこそが、時代を超えて受け継がれている理由だと思います。

シンデレラを通じて、希望を広めたい

数十年をかけてできたコレクションで、ギネス世界記録保持者となった川田さん。世界一と公式に認定される事は、新たな道を開く事だと語ります。

最近色々な方からギネス世界記録保持者になると何か貰えるの?とよく聞かれますが、私はこのギネス世界記録にチャレンジした事で、沢山の出会いとキッカケを貰いました。そしてシンデレラのコレクション本を出版することになりました。今まで経験した事が無い新しい可能性が出てきましたので、もっと多くの人にギネス世界一にチャレンジして、今までに無いチャンスを見つけて欲しいと思います。

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ギネス世界記録に認定された事を受けて、川田さんは、他言語でしか出版されていない物語を翻訳したり、シンデレラがなぜ世界中に広まったのかなど研究をさらに続けていきたいそうです。

そして、自身が所有するコレクションをはじめ、物語上または実在するお姫様たちの展示を常設する「プリンセスミュージアム」を作り、病気と闘っている子ども達やシンデレラのような境遇の子ども達を応援して行きたいと考えています。