今回は、ギネス世界記録のデータベースから、勇気ある挑戦者を定期的に紹介しましょう。紹介するのは、数十億ドルの取引が行われる不法密猟現場で野生動物を守る活動を行う1匹の犬とその調教師のお話です。

不法な密猟者を摘発する犬のアロー

今回のストーリーの主人公は犬のArrow(アロー)と調教師でもある飼い主のHenry Holsthyzen(ヘンリー)。互いにある一つの使命に燃えています。その使命というのがアフリカの地で密猟という残虐行為を摘発すること。南アフリカ北東部の丘陵地や鬱蒼とした茂みが彼らのターゲット地で、約3年間にわたってアローとヘンリーは一心同体のパートナーとして摘発に従事してきました。
 
毎日どんなことを行っているかというと、象牙や角を高値で取引するために野生動物を虐殺しようと意気込む武装した密猟者と対面したり、こうした不法な密猟者によって脅されたレンジャー(森林警備員)を救助したりしています。最近はこうした場面で、アローのような犬の活躍が目立ってきました。
 
First skydiving anti poaching dog 5
 

犬を現場に同行させるようになり、摘発率が上昇

高度に訓練された密猟摘発犬は自らの優れた感覚と本能を駆使して、密猟者がターゲットの野生動物を追ったのと同じ方法で密猟者を探しあてます。「密猟摘発業務で犬を同行させる前は、摘発率がきわめて低かったんだ。アフリカの地は鬱蒼と生い茂っているから、追跡するのは非常に困難だったんだよ。」と語るのは南アフリカの軍事企業パラマウントグループ警察犬学校で犬たちを訓練しているヘンリー氏。
 
「今日、南アフリカのほぼすべての密猟摘発グループ(Anti-poaching unit(APU)が毎日の密猟撲滅業務に犬を同行させているんだ。犬たちの貢献は素晴らしいんだよ。」今から紹介するアローは勇敢なジャーマン・シェパード・ドックで、「 スカイダイビングで任務を行う初の密猟摘発犬 | First skydiving anti-poaching dog 」としてギネス世界記録に認定されています。
 

First skydiving anti poaching dog 2
 

アローがスカイダイビングで任務することになった理由は?

なぜアローがスカイダイビングで任務することになったのかは、ヘンリーが南アフリカの主要野生生物保護区であるクルーガー国立公園に初めて足を踏み入れたときにさかのぼります。
 
当時、クルーガー国立公園は密猟スポットとして疑われていました。しかしここは、「ビッグ5」といわれるヒョウ、ライオン、サイ、バッファロー、象の住処でもあり、犬をこの環境に置くにしてもいくら訓練していたからといって、これらの野生動物に気を取られることが予想されました。
 
しかし、数年間にわたって警察犬を訓練してきたヘンリーは犬たちの信じられないほど優秀な能力を信じていました。同国立公園でヘンリーはングウェニアという別の犬を1週間同行させたところ、ングウェニアは密猟者を数人見つけることに成功したのです。それからというもの、密猟摘発の分野では犬を同行させるのが主流となりました。
 
その数年後にアローが誕生しました。ヘンリーの家で育てられ、2人は互いの絆を深め合います。
 
「アローが子犬のころは手におさまるくらい小さかったな。ただ、成長するにつれてやんちゃになり、家の中や乗り物をぐちゃぐちゃにしたんだ。」と当時を思い出し、「アローはエネルギーが有り余っていたから、彼に仕事を与えて訓練することにしたんだよ。幸いなことに与えた仕事はどれも優れた結果を残し、資質があることがわかったんだ。」
 
アローの潜在能力を見出したヘンリーは、密猟摘発犬として必要な能力(服従、追跡、保護、発見)を高める訓練を行いました。この4つの能力は、港で絶滅危惧種関連の密輸品を探し当てたり、割り当てられた地区のパトロールを行ったり、逮捕予定の特定の密猟者を探す必要がある時など密猟摘発犬にとって、不可欠なスキルです。
 
アローの訓練は、増加する需要に対応して設立された警察犬レンジャーの調教師や密猟摘発犬を育てる先述のパラマウントグループの警察犬学校で行われました。ここでヘンリーの指導のもとアローはメキメキと腕をあげていったのです。
 
増加する需要とはどれほどの危機なのかみていきましょう。サイの密猟を例にすると、南アフリカでは2014年と2015年に1200頭のサイが殺されています。また、象に関してはこの地の生息数が近年、約1/3に減少しています。こうした事態から読み取れるように、優れた密猟摘発犬の導入は急務だったのです。
 
パラマウント警察犬学校の究極の目標は、忠実な犬たちを使って密猟という犯罪行為を防ぐこと、もうひとつはできる限り早期に密猟という問題を解決することでした。
 
 
First skydiving anti poaching dog 3
 

初のスカイダイビングの感想は?

「密猟摘発作戦では常に、警察犬をできるだけ早く現場に向かわせることが大切なんだ。でも、アフリカの草むらは広大な荒野だから、場所によっては車で向かうことができないこともあったんだよ。このような問題への代替策として、ヘリからの懸垂下降や飛行機からのスカイダイビングといった方法を検討することになったのさ。」
 
不法な密猟者を静かに、そしてできるだけ速く追うための新たな画期的アプローチが必要であることを実感したヘンリーは、アローにスカイダイビングを同行してもらうことになりました。ギネス世界記録を樹立することになったのは、このようなストーリーがあったわけです。
 
アローが初めてスカイダイビングに挑戦した時の様子がどうだったのか気になりますよね?ヘリコプターからダイビングをしたところ、高所や風には全くびくともせず、楽しんでいたそうです。
 
 

自身の右腕として深い絆で結ばれ、互いに信頼感を寄せているヘンリーからしてみれば、このような恐れを知らない性格アローこそ、スカイダイビング隊としての役目を果たせる理想の候補者であると認識しました。
 
こうして、アローとヘンリーは、2016年9月17日に南アフリカ首都プレトリア近郊ウォータークルーフ空軍基地の上空から1,828メートル降下し、「 スカイダイビングで任務を行う初の密猟摘発犬|First skydiving anti-poaching dog 」としてギネス世界記録に認定されたのです。
 
ギネス世界記録では、「タンデム(2人乗り)スカイダイビングを行った初の犬 | First dog to ever tandem-skydive 」のタイトルを持つ犬が他にいますが、密猟者を逮捕するための任務としてスカイダイビングを行った犬としてアローは、今後も歴史に名を刻むことでしょう。
 
First skydiving antipoaching dog 5 
 

ヘンリーが野生動物の保護にこだわる理由は?

実は、ヘンリーが訓練した犬のうち、アローだけが賞を授けられたわけではありません。
 
キラーという名前の警察犬は、密猟バトルにおける貢献やその勇気と献身を称えられ、英国のヘンリー王子からPDSAゴールドメダルが授与されています。
 
なぜ、ヘンリーはここまで野生動物の保護にこだわるのでしょうか?
 
「僕は幼い頃から、アフリカの森林やそこで生息する野生動物たちを愛してきたんだ。彼らの存在は僕の心の中で特別な存在だよ。子どもたちや孫たちにも自然環境のなかで動物たちを見てもらいたいと願っていて、図鑑だけで動物の生態を知ったり、動物園だけで動物を見ることはさせたくない。未来の世代の人たちがアフリカやそこに生息する動物たちに魅了される体験をしてほしいからこそ、僕は種の生存のために戦い続けるよ。」
 

アローとヘンリーの絆

ギネス世界記録を授与されてから1年半たった現在もヘンリーとアローは大の仲良し。もちろん、仕事以外でも。アローは時々ヘンリーの腕の中で眠りますし、アローがご飯を食べたあとには追いかけっこをするんだとか。
 
2人が昨年ギネス世界記録を達成した瞬間、ヘンリーはとても誇りに思ったそうです。
 
「アローはスーパースター、いや、今では有名犬だね。それでも僕を信頼してくれる。それにアローは注目を浴びるのが好きみたいなんだ。」と笑顔のヘンリーでした。
 
アフリカでは人間のエゴで多くの動物が被害にあっています。このような自然や野生動物を守る活動を精力的にしている犬や人がいるからこそ、絶滅から守られる動物がいるんですね。これからもアローとヘンリーは大いに活躍してくれることでしょう!
 
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