古語などを逆からタイピングして世界記録を達成した男

By Sanj Atwal
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Split image of Michele Santelia with two different books

ミケーレ・サンテリアさんはイタリア、カンポバッソに住む63歳の会計士。日中はパソコンと向き合っていますが、夜中も趣味でキーボードを打ちまくっています。

そんな彼が達成したギネス世界記録が「最も多くの書籍を逆からキーボード入力した数|most books typed backwards」(81)。しかしミケーレさんは、この記録の数値では表されないスキルを持っているのです。

なんと、彼は4つの無刻印キーボードを同時に使いこなし、画面を見ることなく、この「逆タイピング」を行うのです!

それだけではありません。彼は書籍の言語をそのままタイピングしますーーたとえ象形文字でも古代ヘブライ語でも繁体字でもマヤ語でもエトルリア語でも楔形文字でもヴォイニッチ手稿の字体でも、です。

ミケーレさんは『ギルガメシュ叙事詩』や『死者の書』、『ハンムラビ法典』、『聖書』、レオナルド・ダ・ヴィンチの書物、そして『ギネス世界記録2002』なども逆タイピングをしてきました。

Michele's unmarked keyboards

ギネス世界記録を達成させるには、タイピングし終えたものをミラーにかざすと、オリジナルと同じ読み方ができるようになる必要があります。標準のキーボードはそのような需要に対応していませんから、ミケーレさんは自身で設定する必要があります。結果的に彼が行きついたのが、無刻印キーボード4台だったのです。そして新たに書籍の逆タイピングを行う度に、キーボードの設定を行っているそうです。

ミケーレさんが自身のスキルに気付いたのは1992年。それから文字通り"病みつき"になっていると言います。

「実は私、16台のキーボードを違う高さに置いて同時に扱うことができます」

Michele Santelia with his 'Book of the Dead Backwards'

ミケーレさんがこの趣味に入ったきっかけは、レオナルド・ダ・ヴィンチだそう。ダ・ヴィンチも「ミラー・ライティング」を実践していたのですが、これは他の人からメモを解読されにくくするためだったのではと言われています。左利きだったダ・ヴィンチは、書いた後インクがにじまないようにこの書き方をしていたという説もあります。

「ダ・ヴィンチという啓蒙時代の知能をきっかけに、僭越ながら、自分自身と彼を比較して、彼の秘密や古代の美徳を知ろうと試みたのです」と、ミケーレさんは言います。

Michele Santelia's 'Code of Hammurabi Backwards', typed in Cuneiform script. The book consists of 30 engraved stone pages, weighing 308 kg (680 lb) in total.

またミケーレさんは、書籍を逆にタイピングすることは、奇妙にも逆進する世界への挑戦でもあると言います。「近代において卑劣な出来事は起きるべきではないのに、独裁国家や全体主義国家では邪悪な独裁者が権力を維持するために無力な人々を殺しているのです……。なんて卑怯なんでしょう!」

Michele Santelia's 80th book, 'Jerusalem Delivered Backwards', originally written by Italian poet Torquato Tasso in the 1560-70s

1作品のタイピングが完了すると、ミケーレさんは大きなページに印刷をし、美しい表紙をつけます。

できた書籍はビル・クリントン、ジョージ・ブッシュ、バラク・オバマ元大統領やローマ法王に贈ったこともあるそう。2022年に完成した『ニーベルンゲンの歌』は「偏見のある不細工な社会で日々苦しむ、世界中の障がい者にささげる」としました。

Michele Santelia's 'Opere Maya Backwards'

作品によっては、タイピングする前の準備にも時間がかかります。例えばマヤ族の作品を逆から作るために、ミケーレさんは限定的な既存サンプルをもとに文字と数字をデザインしたのです。

Michele Santelia's 'In the company of UFOs Backwards'

タイピングし終えた81の作品の総ワード数は4,593,552。できた本の総重量は1,236 kgとなりました。

ミケーレさんは、彼の作品群を「逆さのバベルの塔」と呼びます。「聖書ではバベルの塔は混乱を招きますが、私の"塔"は世界中の言語を使って、逆に書かれています。これはのどかな世界へ戻ることへの表現でもあります。それは、前代未聞の暴力や、誤ったイデオロギー、恐ろしい犯罪、口にできない悪、ばかげた権力、政治ゲームがない世界のことです」

Michele Santelia's 'Tower of Babel Backwards'