世界最大のGPSアートができるまで:波乱万丈の日本縦断
突然だが、皆さんは「最大のGPSアート」というギネス世界記録があるのはご存じだろうか。制作者は、現在はGPSアーティストとして活躍している「やっさん」こと高橋康さんだ。
今ではメディアでも注目を浴びるような彼。だが実は、ギネス世界記録を達成した作品「MARRY ME」が彼の処女作だったのだ。

完成したGPSアートを見て分かるように、これはやっさんがプロポーズをするために制作したもの。その制作過程は、波乱万丈そのものであった。
私、仕事辞めます
2008年4月、やっさんは当時、長年付き合っていた女性と同居を始めていた。ふたりが結婚するのは、時間の問題だったであろう。大きなサプライズでプロポーズを決めたい。そう思ったやっさんが目をつけたのは、GPSアートだった。
日本縦断して、日本列島に「MARRY ME」という文字を書いてプロポーズをする。やっさんの壮大なプロジェクトが始まった。
当時はGPSという言葉さえ一般的に語られる言葉ではなかった。だが、作り方を調べていくと、特殊な機材は特に必要がなかったことを知った。一方で、スマートフォンなどが無い時代。大きな日本地図を広げて、その上にトレーシングペーパーを使い、ルートを決めていった。
ルートが決まると、やっさんは重大なことに気付く。それは圧倒的に時間が足りないということだ。そのまま続けたら少なくとも2年はかかってしまう。早期に完成させてプロポーズを成功させるために、やっさんは大胆な一手を打った。
「会社を辞めたんです」
これには同居を始めて間もない交際相手も驚きと困惑を隠せなかった。
「同居を始めたばかりなのに、仕事をスパッと辞めてしまって……。だってこれからって時じゃないですか」
これが壮大なサプライズであることを明かせないやっさんは「日本を旅したい」とうやむやにするのであるから、なおさら困惑しただろう。

GPSの記録は、デジタルカメラの付属品であったGPSロガーを使用した。使い方は移動中の電車などで試した。だがそれ以上の練習はせず、スタート地点の北海道へ向かった。そしてGPSロガーを作動させ、レンタカーを走らせた。
「当時は忙しい会社で働いていたので、ほとんどぶっつけ本番の状態で始めました。北海道初日の夜、自分が描いた1本の線を見た時は、感動を覚えました」
車、崖から落ちる
やっさんが計画したルートには、語の全き意味での「机上の空論」が立ちはだかることがあった。
「日本は山道や、整備されていない道が多いんです。当時はストリートビューがなかったですから、地図帳に1本の道があったら通れると思っていくと、軽トラがなんとか入れるでこぼこ道があったりするんです」

そんな道を目の前にすると、迂回をしたくなるもの。しかしそれをしたら、GPSアートが完成しない。前に進むしかないのだ。
岡山の土手でも災難にあった。
「土手が細すぎて通れなかったんです。なのでバックで戻ろうとしたんですけど、無理で、土手から落っこちてしまいました。生まれて初めてJAFを呼んだんですけど、JAFの車も道が細すぎて来られないと言われてしまいました」

他にも、黒部ダムで(通り抜けができないため)代走をお願いすると、代走業者が運転している時に(やっさんが整備をきちんと行わなかったため)タイヤがパンクしたり、ノーマルタイヤを履いている時に季節外れの降雪に遭遇したりと、あらゆる困難に見舞われた。
それでも、車駐泊を続けることで、独特の体験をすることができた。各地の秘境の温泉にも巡り合うことができた。道中の景色も素晴らしかった。
「(GPSアートの)ハートの右側のところに、摩周湖があります。早朝に行ったら、全体が霧に包まれていて、そこからうっすらと湖を俯瞰できたんです。今でも深く印象に残っています」
手の外のプロポーズ
壮大なプロポーズ計画をはじめて約半年。GPSアート完成間際の12月に再就職先が決まったとはいえ、長い間家を留守にしていた。プロポーズを受ける相手は、日本縦断の旅の目的を曖昧にさせられたまま、やっさんが更新する旅のブログを見続けた。
大きな冒険を遂げて、ついにその成果をみせる時が来た。旅を通じてGPSアートで文字を作っていたのは知らせていた。日本列島に「MARRY ME」を書いた画像を、パソコンの画面いっぱいに表示して見せた。プロポーズ相手の反応に、やっさんは意表を突かれた。

「なんて書いてあるの?」
なんと、書いてある英語が理解できなかったのだ。結局やっさんは説明をし、プロポーズであることを明かした。答えはYESだった。
その後、完成したGPSアートはギネス世界記録に認定された。このニュースは大きく報道され、GPSアートに関連する仕事もするようになった。公式認定には至らなかったが、世界一周をして自身が達成したGPSアート記録を塗り替えるタイアップ企画にも挑戦した。
そして、肝心の結婚生活は順調だ。
「プロポーズは、人生で一回しかやらないもの。一生の思い出に残るものなので、オリジナリティーを出して良かったと今でも思っています。結果的にスベったんですけど(笑)今振り返ると、意外とでかいことをやらかしたんだなと感じますね」
