口ひげから生まれたスーツ モーベンバーの啓発アートが注目集める

掲載日 令和07年10月14日
Split image of the moustache suit, close up and far away

オーストラリアではじまり、今や各国で行われるようになった「Movember(モーベンバー)」。これはオーストラリア発の活動で、男性の健康を考えるためにひげを伸ばすことを推奨する取り組みです。

その日にちなんで、「ひげの力」を忘れられなくなるような、インパクトのある作品が2021年11月に生まれました。

それは「ひげでできたスーツ」。オーストラリアのビジュアルアーティスト、パメラ・クリーマン=パッシさん、広告代理店Bullfrog Creative Agency、そしてメンズウェアブランドPOLITIXの3者が共同で制作しました。

Suit displayed with sewing machine

「口ひげでできた初めてのスーツ| first suit made from moustache hair」は、「Movember」の月に、男性の心身の健康問題への関心を高めるために作り上げたもの。さまざまな色調のひげが、生地に独特の質感を出しています。

仕立ての精密さによる驚きと、社会的なメッセージ性の双方で注目を集め、発表直後に大きな話題となりました。オーストラリアのテレビ番組「The Today Show」で紹介されるやいなや、スパイクス・アジアのヘルス部門で金賞を受賞し、メルボルン・ファッション・フェスティバルでも公式展示として取り上げられました。

POLITIXが展開するキャンペーン「Worn to be Heard(着用して表そう)」と連動し、パメラさんとBullfrogのクリエイティブチームは、男性に多い精巣がん、前立腺がん、そして自殺といった深刻ながら見過ごされがちな課題に焦点を当てました。

彼らは、男性の健康が軽視されやすい社会的構造に声を与えるため、また支援を求めることをためらわないよう促すために、このスーツを制作しました。

Closeup of buttons

スーツには、心身の問題を経験した男性たちから匿名で寄付された何百万本ものひげが使われました。さらに、美容室で廃棄される髪の95%を再利用するオーストラリアの企業「Sustainable Salons(サステイナブル・サロンズ)」から提供された毛髪も用いられています。

Closeup of pants

裏地には、デザイナーであるパメラさん自身の手で「検査を受けよう、率直に話そう、そして自分の体の声に耳を傾けよう」というメッセージが書かれています。

パメラさんは自身のウェブサイトでこう述べています。「毛というのは不思議なものです。体についているときはとても自然で、その人のアイデンティティを形作るものなのに、ひとたび切り離されると、どこか不気味で違和感のある存在に変わってしまうのです」

Full suit jacket

「これは私にとって有意義な挑戦でした。以前に頭髪で布状の作品を作ったことはありましたが、“モーヘア(髭)”を使うのは初めてでした。大量の素材が必要になることはわかっていました」

「大きな段ボール箱いっぱいのひげが届いたときは、思わず『手を思いっきり突っ込んでみたい!』と思いました」

Close up of buttons

マスターテーラーのニコス・マノリスさん、パターンメーカー兼スタイリストのマイケル・テリスさんの力を借りて、パメラさんは、POLITIXの黒いコットン生地と極細のブラックチュールの間に異なる色合いの口ひげをサンドイッチ状にした構造を作り出しました。

縫い合わせにはブラインドステッチ(表に糸が出ない縫い方)を採用し、近くで見ると心拍数モニターの波形のような模様に見えます。

Writing on suit lining

スーツの内側には、毛髪を寄付した男性たちの言葉も縫い込まれています。「人生を精一杯生きよう」「大切な人とつながり続けよう」「健康をないがしろにしない」といったメッセージが並びます。

さらに、2016年にがんで亡くなったパメラさんの夫、パッシ・ジョーさんへの追悼ラベルも縫い付けられました。このスーツは、「Worn to be Heard」キャンペーンの象徴であり、制作者にとっても特別な意味を持つ作品となりました。

Suit being displayed

「このプロジェクトには深く心を動かされました」とパメラさんは話しました。「パッシ・ジョーは仕立ての良いスーツを愛していて、彼の故郷アフリカやパリのサプールたちへの親近感を感じさせる人でした。そして、よく立派な口ひげを伸ばしていました」

「この"モーヘア"・スーツは、前立腺がん、精巣がん、そして精神疾患で命を落としたすべての男性たちへのオマージュです。Movemberの後もずっと、男性の健康についての対話を続けるきっかけになることでしょう。いや、きっかけになるべきなのです」