デイヴィッド・アギュイラー: 世界初のレゴ®製義手

アヴェンジャーズなんて現実には存在しないとお思いだろうか。そんなあなたに紹介したいのが、この記録保持者。『革新』と『インクルージョン』をテーマに発明し続ける、デイヴィッド・アギュイラーが作り出したハイテク義手シリーズは、その名もMK-1, 2, 3, 4。素材はなんと、LEGO®ブロックだ。

『ハンド・ソロ』の異名を持つアギュイラーは、18歳にして、世界初の、LEGO®ブロックによる、実際に使用可能な義手を発明した。

生物工学を専攻しているアギュイラーは、Acceptance-『受容』に情熱を捧げる。彼が手に取るLEGO®ブロック一つ一つが、もっと優しさに包まれ、そしてもっと人々をありのままに受け入れられる世界への一歩となっているのだ

 
アギュイラーが初めてブロックで義手を作ったのは、わずか9歳の頃だという。
 
ポーランド症候群という、胸筋や腕、肩や手の筋肉の発育に異常を起こす先天性の病気のため、右腕が発育不全のまま生まれたアギュイラー。
 
『普通』の子供と違うという理由だけで、決して簡単とは言えない幼少時代を送ることとなった。心無い言葉を投げられたことも多かったという。
 

そんな中、アギュイラーは、想像力を武器に、自分の世界へ没頭することで、外の残酷な世界から身を守った。

徐々にゲームやコミックといったポップカルチャーに夢中になり始めたアギュイラーは、想像の中で、新しい世界を組み立てていくことに明け暮れた。

「そうしているうちに、我を忘れて一日中レゴばかりをし始めた」と彼は語る

その言葉通り、一通りレゴで飛行機や自動車、家などを作ってしまった後、アギュイラーは自分用に新しい義手をレゴで作り始めた。これが全てのきっかけだった。

"アギュイラー曰く、「レゴは僕にとって初めてのおもちゃだった。これさえあれば、なんでも自分で作れるんだという気持ちにさせられたのを覚えている。想像力に制限は無いんだと」

そんな彼にとって大きな影響となったのが、父親だ。アギュイラーの情熱を決して否定することなく、まるで共犯者のように、彼を横で支え、いつも励ましの言葉をくれたと言う。

実際にアギュイラーは父親と共同執筆で本を出版している。題名は『Piece by Piece』(一つずつ)。その本の中でも、彼は父親に対して、自分を特別扱いすることなく、当たり前のように遊んでくれたことに感謝している。『ハンド・ソロ』の呼び名の裏には、父親が一緒にレゴで遊んでくれたこと、そして一緒になって世界を組み立ててくれたことが大きく関わっているのだ。

共同出版した本を持つアギュイラーと彼の父親

実在するトニー・スターク

アギュイラーの最初の義手は彼が幼い頃に作り出された。ボートを作るキットからブロックを取り外し、義手の形を作っていったという。だが、一般のレゴブロックは全体の重さをキープできるほど耐久性が無かった。

9年後に再び挑戦したアギュイラー。今度は完全に義手として機能するモデルを作り上げた。

赤いボディから、アギュイラーはそのモデルをMK-I (マーク・ワン)と名付けた。もちろんインスピレーションを得たのは、アイアンマンの赤いボディアーマーからだ。

機械による動作、完全な機能性を持つこの義手は、レゴのテクニック・レスキュー・ヘリコプター・セットというキット(#9396)のブロックを使っている。

可動性の肘関節だけではなく、物を掴んだり、つまみあげたり、日常使いに必要とされる動作を可能にしたこのモデル。なんと腕立て伏せもできると言うのだから驚きだ。物を掴むグラッバーの機能は、肘を曲げることでアクティベートされる。

「このモデルはモーターを兼ね備えていない。自分の筋肉を使ってコントロールするから、長時間使用すると疲れるのが難点。ただMK-Iは腕立て伏せで自重を支えられる程耐久性が強いから、そこが気に入っている」と、語るアギュイラー。

そして2017年の1月、アギュイラーとMK-Iは世界初のレゴ性の実用可能な義手という記録を保持することとなった。だがこれは、彼の物語の始まりに過ぎない。

自分を鏡で見つめて、他の人みたいに2つの手が映っているのが見たかったんだ。

– デイヴィッド・アギュイラー

David Aguilar MK arms green background

レゴ®テクニックとは?LEGO® Technic?

一般のレゴよりも硬く、耐久性が良いレゴのこと。
普通のレゴで作った車も、レゴテクニックを使うことで、もっと複雑性が高いエンジンや、実際の車が持つ機能や機械性、精密性も兼ね備えることを可能にする。

CONTROL+アプリで性能性を高めたり、大人向けのモーターバイクやレーシングカーも作ったりすることができる。

モーター式のレゴ義手

レゴで作られた義手なんて信じられないという人々を横目に、アギュイラーはもっと性能製の高い義手を作るため、MK-Iモデルを改造し続けた。

最新版モデルの名は、MK-V。このレゴ義手はモーター性で、少しの筋肉を動かすだけで、義手の5本の指をコントロールすることができる。

以前のモデルに比べ、MK-Vは使い心地の良さが圧倒的にグレードアップしている。また、特徴的なのはこの義手内に搭載されている『スパイク・プライム・ハブ』という、プログラミングに対応している制御基盤だ。義手はセンサーで受信した命令を、モーターに送り出すことができる。使用者の筋肉の使用量に依存しないため、長時間使用していても疲れることがない。

「自分の筋肉を使用しなくて良いから、今までの僕のモデルの中では一番使い心地が良い。力仕事はモーターが全部やってくれますから」と言うアギュイラー。

義手を作る上での主な難点が、バランス性と使い心地だ。

「どんなに機能性があったって、着心地がよくないと使う気にはなりません。その逆もしかりです」

ハン・ソロやトニー・スタークという名前から想像できるように、ポップ・カルチャーはアギュイラーにとって大きな影響となっている。

彼にとってのその絶頂が、NASAでのイベントの際、ライアン・マイネルディングと共にマーヴェルのビジュアル部署を創設したチャーリー・ウェン本人から、『実在するトニー・スターク』という名前をもらった時である。

発明品を手にして微笑むアギュイラー。これを手に、必要としている人々を助けていく。

足で操作する初のレゴ義手

トニー・スタークさながら、この生物工学を専攻する若きアヴェンジャーにはミッションがある。それは、必要としている人全てに届くよう、リーズナブルな義手を作ること。

カザフスタンに住む8歳のベクナー・ベクテミソヴァくんは、発育不全の両腕と共にこの世に生まれた。

アギュイラーの記録や義手の話を聞いて、ベクナーくんの両親は自分の子供に二つのレゴ®義手を注文した。

それを受け、アギュイラーは父親、フェラン・アギュイラーと共に、電気スタイラスを搭載した義手を作り上げた。その名も、『eMK-Beknur』(イー・マーク・ベクナー)。

ベクナーくんの母親は、義手を試すのが待ちきれないと興奮する息子を連れて、アンドラからフランスまで約1,300キロを渡ってアギュイラーに直接会いにいった。

ベクナーくんが初めてレゴ義手を使っている様子を見て、本当に幸せな気持ちになったとアギュイラーは振り返る。

「思わず僕までつられて笑ってしまうほどに、ベクナーくんは満面の笑みで笑っていました!
こうして僕が義手を作り続けられるなら、世界中の、もっとたくさんの方々や子どもたちを助けられることができると思う。」

この義手はグラップリング・ピンサーという機能が特徴で、ケーブルが接続された片足で動きがコントロールできる。

レゴブロックでこの義手を作るにあたり、かかった費用は15ユーロ(18ドル)。リーズナブルな価格で完全に機能する義手をアギュイラーは作り上げた。

これにより8歳のベクナーくんは、従来の義手にかかってきた購入費、メンテナンス費などといった、多くの人が悩まされている金銭的問題に縛られずに、自由に動き回ることができる。

この『eMK-Beknur』(イー・マーク・ベクナー)で、アギュイラーは二つのギネス世界記録を、2021年に更新した。

  • 世界初の足で操作するレゴ義手|First functional foot-controlledLEGO® prosthetic arm
  • 世界初のタッチペン付きのレゴ義手|First functionalLEGO® prosthetic arm with a stylus

ハンド・ソロの未来

3つものギネス世界記録保持者になったことは、アギュイラーにとっては旅の始まりでしかない。彼の次なる目標は、MK-VIの改良である。

次のモデルでは、手と肘が別々に動きながら、5本の指もそれぞれバラバラに動かせることを目標としているという。

また、ハンド・ソロとして自身のYouTubeチャンネルでの動画投稿や音楽制作の幅を広げること、そして3Dプリント技術を使って義手を改良していくことも視野に入れている。

「自分の中でのスタンダードの定義が変わってくると思います」と彼は語る。

 レゴマスターで優勝するデイヴィッド・アギュイラー
 

David aguilar riding a scooter


2021年、フランスで行われたレゴマスターで優勝し、世界から称賛を浴び続けているアギュイラー。そんな彼は、レゴによるグローバルキャンペーン、#RebuildTheWorldの顔でもある。

 

違った視点から物事を見て、想像力と共に創造することの素晴らしさを、レゴは提唱し続けてきた。このキャンペーンを通して、子供から大人まで、自分の創造力の限界を破るよう語りかけている。

無限の可能性を持って、世界を組み立てるために。

ハンド・ソロのモチベーションは、必要としている人々に与え(give back)、その人々を助けることにある。

カタロニア国際大学での生物工学の勉強を終えたら、アギュイラーは自分の創造性とスキルを必要とする人々に提供したいと言う。人と違っているという理由で、数々の困難を乗り越えなければいけなかった人々のために。

アギュイラーは、撮影を終えたというドキュメンタリー、『Mr Hand Solo』について、自身のウェブサイトにて、こう語っている。

「他の人と違うという単純な事実を、ありのままに受け入れ、包括できる、そんな世界が実現するための一歩として、(このドキュメンタリーが、)障がいという原罪を打ち砕き、観てくれた全ての人の心の琴線に触れることを願います」

すべての夢は、強く望みさえすれば叶う。そのために、戦わなければならないんだ。

– デイヴィッド・アギュイラー