グレタ・トゥーンベリ: 最年少のタイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤー

社会に影響を与えるのに年齢は関係ないことを、身を持って証明しているスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。彼女は2019年、世界情勢に大きく貢献したと評価され、一流雑誌から褒賞された。それによって、過去90年間破られることのなかったタイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤーの最年少記録を塗り替えたのだ。

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Words: Rachael Greaves

2018年、あるニュースが報じられた。スウェーデンで15歳の女性が学校に行くことを拒否するストライキを起こし、気候変動問題を訴えているというものだった。その少女こと、グレタ・トゥーンベリのストーリーは瞬く間に世界中に知れわたった。彼女が着る黄色いアノラック姿は、今や象徴的なものとなっている。お茶の間でも語られる存在になった今、トゥーンベリは、他の活動家たちと立ち上げた フライデー・フォー・フューチャー(未来のための金曜日) と グローバル気候マーチ の勢いが止まらないよう、活動を続けている。

彼女の貢献は拍手喝采を受けているものの、トゥーンベリは、まだやるべきことがあるとの考えから、称賛や賞を断ることも少なくない。トゥーンベリに贈られたあらゆる称賛のなかで、特に印象的なものの1つが、タイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤー。当時16歳354日だったトゥーンベリは、「最年少のタイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤー| youngest TIME Person of the Year」受賞者となったのだ。

2003年生まれのトゥーンベリが、気候変動を意識し始めたのは7歳か8歳のころだったという。地球を取り巻く環境問題と、それに伴う残酷な未来像に大きく影響を受け、意気消沈したそうだ。現状を変えたいとの思いから、まずは家で活動を始めた。家族にライフスタイルを変えてほしいと訴えたのだ。ギネスワールドレコーズによる独占インタビューで、トゥーンベリは「初めは灯りを消すとか、小さなことでした」と語った。「両親は少しイラっとしていましたが、影響を与えていることを実感している私にも気づいてくれました。」

国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)で演説するトゥーンベリ氏

トゥーンベリは2018年から世界中のメディアで積極的に取り上げられるようになった。彼女の活動は、1か月に及ぶ学校を休むストライキから始まり、それがフライデー・フォー・フューチャー(未来のための金曜日)のムーブメントに火をつけた。このストライキは、スウェーデンで250年以上の観測史上最も暑い真夏日を記録したことを受けてはじめたものだった。この活動にインスピレーションを受け、他方でも抗議活動が行われるようになった。そして2019年3月15日、125か国同時に気候変動問題を訴えるイベントが開催。そのイベント総数は2,200にのぼり、およそ100万人のサポーターを引きつけたという。現在でも活動を続けるトゥーンベリは、ギネスワールドレコーズのインタビューで、若者に対して、自宅で変化を促すよう呼びかけた。「両親や周りの大人たちに声をかけ続けてください。心地悪くすることを恐れずに、自身の行動で模範を示す人物になってください。」

トゥーンベリは仲間と街に出て主張をするにはとどまらない。特に印象的なのは、国連のCOP 25やダボス会議といった重要な会議での演説だ。

将来の世代の目は、全てあなたたちに向けられています。裏切る選択をするならば、私はこう言います。あなたたちを絶対に許しません。 - グレタ・トゥーンベリ、2019年9月23日、UN気候サミットにて

トゥーンベリは、できる限りゼロエミッションの手段で移動し、政府高官や文化人へ向けて演説をしてきた。世界のリーダーや宗教指導者を相手にしても、自身の意見を躊躇せず伝えた。こういった行動で、アントニオ・グテーレス国連事務総長、ローマ法王、ダライ・ラマ、ジョー・バイデン次期大統領から支持を得るようになった。バラク・オバマ元大統領はトゥーンベリと訪問した後、ツイッターで「(彼女は)すでに地球上の偉大な活動家の1人だ」と投稿した。

一方で、ドナルド・トランプ大統領、ウラジーミル・プーチン大統領、ジャイール・ボルソナーロ大統領とは衝突した。トゥーンベリを含む新たな気候変動活動家たちは、長く環境保護政策を掲げてきた(2015年タイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤーの)アンゲラ・メルケル首相にさえ、躊躇なく注文をする。

Copyright: TIME

2018年に行ったTEDxStockholmでのスピーチを皮切りに、2050年に温室効果ガスをゼロにすることを75か国以上に説得してきたが、トゥーンベリはEUの計画に満足していない。EUへの書簡でトゥーンベリは、COVID-19への対応が環境問題に重点を置いていないと批判した。「気候変動危機が危機として扱われていないことは今まで以上に明確になりました。排出ガスの低減が順調だと思い込み続ければ続けるほど、我々は貴重な時間を失います。」

トゥーンベリはタイム誌のパーソン・オブ・ザ・イヤー以外にも、ノーベル平和賞の候補にもなり(2019年。エチオピアの首相、アビィ・アハメド氏が受賞した)、ベルギーのモンス大学から名誉博士号を授与された。

タイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤー、グレタ・トゥーンベリ氏

受賞を固辞することもあった。特に衝撃を与えたのは2019年北欧理事会環境賞受賞の辞退だ。トゥーンベリは「(Fridays for Future)は(北欧)政府の無活動に対してデモを行っていたので皮肉なものです。北欧諸国の1人あたりのカーボンフットプリントは世界で上位に入る量なのです」と語った。また「本当のアクションを起こすことなく、ただ賞を立て続けにもらうのにうんざりした」とも語った。

グレタ・トゥーンベリ氏にちなんでつけられた新種甲虫類「Nelloptodes gretae」

賞のほかにも、変わった称賛のされ方を経験したこともある。その1つが、新種の虫に名前が採用されたことだ。2019年10月、新たに発見された甲虫類が、ロンドン自然史博物館のマイケル・ダービーにより「Nelloptodes gretae」と名付けられた。トゥーンベリの環境への貢献を称えるためであるが、ダービーによると、新種の甲虫類の触覚はトゥーンベリのツインテールに似ていたと語っている。

トゥーンベリは今後について明確な計画はないというが、COVID-19パンデミック中は自宅から活動を続けるそうだ。スウェーデンでは外出制限はないが、多くの住民は外出を控え、ソーシャルディスタンスを保っている。トゥーンベリの活動の舞台は、今はオンラインだ。イベントは「Talks for Future」と命名し、考えを共有する世界中の活動家たちと、毎週金曜日にストリーミングで会っている。

10年後の自分について聞かれると、気候変動活動家の仕事が終わっていて、違うことができていればと期待を込めた。「いずれにせよどこかで、この世界をより良いする場所にするための何かをしていたいと思います。」

トゥーンベリとギネス世界記録公式認定証

インタビュー:グレタ・トゥーンベリ

Q: 気候変動について認識した瞬間を覚えていますか?

A: 気候的および生態学的危機は学校で初めて知りました。多分7歳か8歳のころだったと思います。部屋に誰もいなかったら電気を消して消費エネルギーを削減したり、包装や紙類をリサイクルしたり、食べ物を破棄しないようにと言われたのを覚えています。私がこの問題に興味を持ったのは、他に誰も興味を持たなかったからだと思います。あからさまな危機が危機として扱われておらず、誰もそれについて話さないのがとても奇妙に思えたのです。みんな今まで通りに過ごしていて、それを理解することができませんでした。そこで問題について読み始めて、だんだんその意味について理解するようになってきたのです。一旦理解してしまうと、分からなかったころの状態には戻れません。のめり込んで、何かしなければいけないのです。

Q: あなたが8歳の時に、家族に二酸化炭素の排出量を減らさなければならないと伝えたとき、両親はどんな反応を示しましたか?

A: 初めは、興味津々の子どものように、この問題は何なのかとか、何が起きるのかとかを聞きました。彼らが答えられないならば、自分で読み物をします。そこで知ったことを両親に伝えて、話続けたんです。多分聞き疲れたと思います。自宅での対策は電気を消すといった小さなことでした。両親は少しイラっとしていましたが、影響を与えていることを実感している私にも気づいてくれました。

Q: 若い人たちに向けて、家庭や学校、地域などでよりグリーンなことを促進するためのアドバイスはありますか?

A: まわりの大人たちにしつこくし続けてください。心地悪くすることを恐れずに、自身の行動で模範を示す人物になってください。自宅では、エコロジカル・フットプリントを削減するために家族ができることのリストを作ると良いでしょう。

Q: 多くのキャンペーンがうまくいかないなか、フライデー・フォー・フューチャー(未来のための金曜日)が人々を引き付けた理由は何だと思いますか?

A: そのような言い回しは良くありません。しかし、正しいタイミングで正しいことができたんだと思います。うまくいった理由はわからないですし、誰にも予測できなかったことです。若者による「大人が気にしていないのになぜ私たちが気にしなければならないのか、そして未来は私たちから奪われているのに、なぜ未来のための勉強をしなければならないのか?」という訴えを強く象徴するものなのです。(フライデー・フォー・フューチャーは)若者が実践できるものなのです。投票はできないけれど、学校には行かなければならない……この活動は、我々にとって社会を揺さぶる手段なのです。

Q: あなたが得た知名度について、家族はどう思っていますか?メディアのスポットライトを浴び続けるのは大変ですか?

A: もちろん、家族は私がターゲットになっていることを心配していますし、これは家族全体に影響を及ぼします。しかしこれが私にとってどれだけ大事なことかが見えていますし、影響を与えていることを実感している私も見てくれています。それを見た彼らも嬉しいのだと思います。

Q: 環境にまつわる政策について、一部の政治家と意見が合わないのは周知の事実ですが、あなたと強く対立する人たちを説得するにはどうすればいいと思いますか?

A: 説得することに興味はありません。(環境問題は)あなた次第で信じるか信じないかを決めるものではありません。科学を知って受け入れるか受け入れないかの問題なのです。私は科学を語り、知らしめることによって関心を高めようとしているだけです。

Q: 良い環境にまつわる方策を出している国はありますか?

A: 地球温暖を1.5°C以下にするためにしなければいけない方策をしている国はありません。もちろん、ある国は他より著しく悪いと議論することもできるでしょう。それは確かに事実です。しかし、誰も十分なことをしていません。なぜなら、一般的な認識が低すぎるからです。

Q: 2019年に北欧理事会環境賞受賞を拒否しました。理由を教えてください。

A: 北欧の政府からの受賞だったからです。北欧政府の無活動に対してデモを行っていたので皮肉なものです。北欧諸国の1人あたりのカーボンフットプリントは世界で上位に入る量なのです。そしてフライデ・フォーフューチャーは最近多くの賞をいただいていたので、本当のアクションを起こすことなく、ただ賞を立て続けにもらうのに、正直うんざりしていたのです。

Q: 最年少のタイム誌パーソン・オブ・ザ・イヤーになったことについてどう感じていますか?

A: 正直分かりません。まだ実感できていません。ここ18か月で起きた出来事について飲み込めていないのです。でも、若者でも影響を与えることができて、年齢のせいで声をあげられないということはないということを、パーソン・オブ・ザ・イヤーを通じて示せるといいなと思っています。

Q: あなたは1927年以来、まだ女性として5人目のパーソン・オブ・ザ・イヤーであることについてはどう感じていますか?

A: 残念なことだと思います。知った時にはショックを受けました。女性が(今でも)違う扱い方をされていることを示しています。

Q: 気候変動に関わる活動/政策で記録を樹立できるとしたら、どんなものがいいですか?

A: 気候的および生態学的危機の緊急性をなるべく多くの人に知ってもらうことです。そうすれば、科学に沿った政策を人々が求めるようになるからです。

Q: 気候変動の活動や政策以外の記録はどうですか?

A: 競技や記録を破ることについてそこまで興味はありません。でも、虐待された動物をレスキューした数とか、最も大きな生態系を保護する記録とかなどが考えられるかもしれません。

Q: 波風を立てることを恐れない(同じく記録保持者の)マララ・ユスフザイに会った時の感想を教えてください。

A: 私にとってお手本となる人なので、信じられない体験でした。誰かに夢中になったのは初めてで、日常のこと、そして気候的生態学的危機がいかにグローバルサウスの貧困に陥っている女性に影響を及ぼすかを議論しました。

Q: コロナウイルスは気候変動の運動にどう影響すると思いますか?

A: それは分かりません。待って様子を見るしかありません。世界的な緊急事態で、社会はもちろん、困っている人たちを助ける必要があります。

人類は岐路に立っています。我々はどの道を進むのかを決めなければいけません。将来、全ての生物にとってどんな生活環境であってほしいですか? - グレタ・トゥーンベリ(2019年4月、エクスティンクション・レベリオン集会にて)