マイア・ローズ・クレイグ:最北端の気候変動抗議活動

イギリス出身の自然主義者マイア・ローズ・クレイグ博士は、3歳の頃から熱心に鳥を観察し、その情熱を追い求めて7大陸を旅してきた。しかし、2020年、彼女は気候変動の危機に対する世界の関心を喚起するという別の目的を持って、北極圏に赴いた。

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世界には10,000種以上の鳥類が生息しており、専門家の中には実はその数は18,000種(Eng vers. contains link)にも上るのではないかと推定する人もいる。一般的な鳥類学者にとって、全ての鳥を見つけ出すことが生涯の目標であることは不思議ではない。しかし一生をかけても、ほとんどの人はその目標を完全には達成できないと理解している。そんな中、別名「バードガール」として知られる若き自然学者マイア・ローズ・クレイグ博士(イギリス)は、「一般的な鳥類学者」とはかけ離れていることをすでに疑う余地なく証明しているのだ。

彼女の両親クリスとヘレナは娘が生後9日目のときに初めてバーディングに連れて行った。それ以来、彼女は鳥類発見という壮大な旅を続けている。

2010年にエクアドルのアマゾン熱帯雨林でバーディングをするクレイグ 南極のペンギンたちとのひととき
オーストラリアの色鮮やかな鳥たちと 父クリスと姉アイーシャとの南アフリカでのバーディング

バードガールの飛び立ち

クレイグが3歳の頃には、自宅のあるイギリスのサマセット周辺や、家族で休暇を過ごしたイギリス諸島、さらには異国の地で、野生の鳥を観察しては記録していた。11歳の頃には彼女はバードガールとしてブログを始め、多くの人々に注目されるようになった。このブログは、最新の目撃情報やフィールドで撮影した写真をファンと共有するだけでなく、彼女にインスピレーションを与えたり、あるいは逆に憤りを掻き立てたりした、保護プロジェクトや環境問題にスポットライトを当てる場でもあった。

「バードガール」というニックネームがどうやって誕生したかと言うと、実は実用的な背景があった。「この名前を思いついたのは8歳のとき。エクアドルにバードウォッチングをしに行く際にメールアドレスが必要になったのです。その後、そのまま定着してしまって!」

その後わずか13歳にして、ブラジルのアマゾン熱帯雨林をトレッキングしていた彼女は、他の人が何十年もかけて目指すであろう5,000種目の生物を記録するという偉業を成し遂げた。

その偉業がなおさら喜ばしいものとなったのは、彼女が発見したその鳥が5年前から探していた種であったからだ。クレイグが本格的に鳥類発見に取り組み始めた時期がどれだけ早かったのかを際立たせるエピソードだ。その記念すべき発見に値する価値ある鳥はオウギワシであった。オウギワシ自体も「猛禽類最強の鳥 |strongest bird of prey」としてギネス世界記録に登録されている。ナマケモノやサルなど自分の体重よりも重い9kg程の獲物をヴェロキラプトルのような13 cmのつめを使って持ち上げることができるのだ。意外でないかもしれないが、オウギワシは「最も長いワシのつめ|longest eagle talons」の持ち主である。

8歳の頃から(オウギワシを)見たいと思っていたから、すぐ上にある大きな木の上に座っているのを見て大感激でした。オウギワシは世界で最も身長のあるワシで、サルを餌とするので、私のこともなんなく拾い上げることができたでしょう!

2015年にクレイグが達成した偉業はこれだけではなかった。同年末、初めて南極を訪れた彼女は、「全大陸でバードウォッチングをした最年少の人物|youngest person to birdwatch on every continent」を極寒の地に到着した時点の13歳234日で樹立した。彼女の7大陸においてのバーディング・デビューの概要は以下の表のとおりだ。

大陸ごとに見るクレイグのバーディング・ジャーニー

大陸、地
年    観察した主な種
ヨーロッパ:イギリス、サマセット2005年5月ヨーロッパコマドリ(Erithacus rubecula)、シジュウカラ(Parus major)
アフリカ:南アフリカ、ケープタウン2006年5月ミナミゴシキタイヨウチョウ(Cinnyris chalybeus)、メジロアフリカヒヨドリ(Pycnonotus capensis)、モリカナリア(Crithagra scotops)、ムネアカハイタカ(Accipiter rufiventris)
アジア:バングラデシュ2006年12月アジアレンカク(Metopidius indicus)、ウオクイワシ(Haliaeetus ichthyaetus)、シロスキハシコウ(Anastomus oscitans)
南アメリカ:エクアドル2010年8月コンドル(Vultur gryphus)、フットヒルスクリーチフクロウ(Megascops roraimae)、キンボウシハチドリ(Campylopterus villaviscensio)、オニジアリドリ(Grallaria gigantea)
北アメリカ:アメリカ合衆国、ジョージア州アトランタ2012年8月ノドアカハチドリ(Archilochus colubris)、エボシクマゲラ(Dryocopus pileatus)、カロライナコガラ(Poecile carolinensis)、ムナジロゴジュウカラ(Sitta carolinensis)
オセアニア:オーストラリア、クイーンズランド2013年7月オナガミズナギドリ(Ardenna pacifica)、ハジロミズナギドリ(Pterodroma solandri)、ヒメクジラドリ(Pachyptila turtur)
南極:南極半島、ブラウンブラフ2015年12月コウテイペンギン(Aptenodytes forsteri) – ペンギンの中で最大の種、ユキドリ(Pagodroma nivea)、ナンキョクムナジロヒメウ(Leucocarbo bransfieldensis)

クレイグにとって特別な鳥たち

彼女がこれまでに見た何千羽もの鳥の中で最も目を引くのは記録として登録されている種である。「私が8歳の頃、エクアドルでヤリハシハチドリを見ましたが、このハチドリはくちばしが体よりも長いのが特徴です!」そのくちばしの長さは10.2cmで、動物界で「体の大きさに対して最も長いくちばし|longest beak relative to body size」を持つのがこのヤリハシハチドリだ。「あまりにも素晴らしかったので、世界中のハチドリを見てみたいと思い、現在までおよそ半分以上のハチドリを見てきました。」

「私の大好きな鳥はオーストラリア(および東南アジア)に生息するヒクイドリです。体長は約1.8mで、恐竜のような姿をしていて、その蹴りはとても危険です!」最近では2019年にもこの強力な鳥による死亡事故が発生しており、現在生存している鳥の中で最も危険な鳥と言っても過言ではない。(ここで強調しておきたいのは、ヒクイドリは一般的に人間との接触を避けたがる。脅威を察知したときのみ暴れるということだ。)

ヒクイドリはダチョウとエミューに次いで世界で3番目に身長のある鳥だ
クレイグにとってバードウォッチングは小さい頃から親しみがあった

バーダーになりたいみんなへ:やってみて!

クレイグは大抵の人よりもはるかに多くの鳥を観察してきたと言えるが、それでも彼女が見たがっている鳥は数多く残っている。

「パプアニューギニアを訪れてカタカケフウチョウやアカカザリフウチョウなどを是非見てみたい」と彼女は語る。

バーディングの良さの1つは誰にでも平等であることだ。都会でも地方でも、内陸でも海岸沿いでも、北緯でも熱帯でも、どこに住んでいようとそこには必ず観察できる鳥がいる。

バーディングを始めようとしている人にクレイグは「とにかくやってみて」と語る。「特別な道具は必要ありません。ただ単に空を見上げてそこに何がいるかを見てみれば良いだけです。フィールドガイドがなくてもスマホに無料アプリをダウンロードすれば良いですし、インターネットで検索しても良いと思います。」

「友達や家族と出かける方がより安全に楽しく観察できます」とも言う。

自然、保護、環境のそれぞれの分野において人種的多様性を高めるためには組織が努力する必要があります。まずは人種と平等を基本的価値とみなすことが必要です。

- マイア・ローズ・クレイグ

みんなの自然

バードガールが情熱を注いでいるのは鳥類学だけではない。

バングラデシュ系英国人であるクレイグは、自身が10代前半の頃、野生動物を観察するコミュニティに多様性がないことを肌で感じ始めていた。

「私が13歳のとき、若きバーダーたちのための週末キャンプを企画しました。たくさんの人が申し込んでくれましたが、ほとんどが田舎に住む白人の男の子ばかりでした。そのときに気づいたのです。自然の中にVME(可視少数民族)の人たちがほぼいないことに」

「私はキャンプに来てくれる5人のVMEの少年たちを懸命に探し出しました。結果、彼ら全員が楽しんでくれました。VMEのコミュニティは自然や田舎を訪れることに興味があるのですが、その機会がないことに、そのとき気づきました」

そのような状況を改善するために彼女はBlack2Natureというチャリティを立ち上げた。自然主義における公平性を高めると共に、都会の子供たちに地方へのリトリートなどを企画する。彼女は「全ての人々(特にVMEのコミュニティ)が平等に自然へアクセスできるよう戦うために、Black2Natureを設立した」と言う。

(この業界は)VMEの子供たちやティーンエイジャー、そしてその保護者たちと業界でのキャリアについて話し合い、すぐさまVMEの人々を対象とする雇用創出を行い、有給インターンシップの設置などを通じて全ての人々に職業を開放するべきです。

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クレイグは、自然産業が変化するためにはメディアが率先して多様性やよりインクルーシブな表現を追求していかなくてはならないと強く信じている。子供の頃の影響について彼女はこう語る。「自分と同じ見た目の人がロールモデルとして存在することがとても重要だと思います。私の姉のアイーシャは熱心なバーダーで私の最初のロールモデルでした。10代の頃は、素晴らしい自然主義者かつテレビ司会者、そしてPOC(パーソン・オブ・カラー)であるリズ・ボニンに刺激を受けました」

私はスティーブ・バックシャルの「デッドリー60」を見て育ち、そのおかげで動物を愛することが当たり前のことになりました。番組を繰り返し見ていた私はバックシャルのように人里離れた場所に行き希少種や危険種を探し歩きたいと思うようになりました。

- マイア・ローズ・クレイグ

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博士誕生

地元のチュー・バレー・リンギング・ステーションで2011年から行ってきたボランティア活動などの自然保護活動に加え、バーディングの民主化を訴える彼女のアドボカシー活動はブリストル大学の目に留まった。2020年初めに当時17歳だったクレイグはブリストル大学から名誉科学博士号を授与され、イギリスでこの名誉ある賞を受賞した最年少記録を打ち立てた。

「名誉博士号を授与されたことは信じられないことでした」とクレイグは言う。「メールを受け取ったとき、友人のいたずらかと思いました!脚光を浴びることは素晴らしいことです...でもBlack2Natureの創設者としての私の活動が前面に押し出されたことがより重要でした。英国人として最年少で名誉博士号を授与されたことは嬉しいおまけです」

気候変動に対する活動を支持

クレイグの自然への愛は、今を生きる誰もが平等に自然を楽しむ機会を持つだけでなく、次の世代にもそれが受け継がれるべきだと感じていた彼女に火をつけた。彼女は気候変動反対運動の熱心なサポーターとなり、ギネス世界記録の殿堂入りを果たしたグレタ・トゥーンベリも参加者に含まれた2020年初めの「Bristol Youth Strike 4 Climate」に参加し、意見表明をしている。

「Youth Strikes for Climateは若い気候活動家グループに自治権を与え、彼らが自分の地域で効果的な抗議活動を行う助けになっていると思います。植民地主義的な環境保護主義から脱却し、国際的な気候正義を求めてキャンペーンを行うことが重要です。私が執筆した書籍「We Have a Dream」がもうすぐ出版されます。私は世界中で変革を求める30人のPOC環境保護活動家をインタビューしました。メディアにはほとんど取りあげられていませんが、彼らが成し遂げていることは本当に素晴らしいのです。」

私たちはなんとか気候変動を議題に上げることができました。しかしポリシーメーカーたちは未だにできるだけ行動を起こさずに済ませようとしています。

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北極に輝く星

クレイグの環境活動は、彼女を文字通り地の果てまで導くだけでなく、さらに驚くべき記録も樹立させることとなった。2020年9月、彼女は海氷の急速な減少について注意喚起するため、グリーンピース船「Arctic Sunrise」に乗り北極へ向けて出発した。2020年の海氷面積は、2012年に次いで史上2番目に少ないものだった。

クレイグは、北極海に浮かぶ多くの氷の破片のうち、かつては1年中しっかりとした氷床を形成してたであろう氷の破片の1つに降ろされ、北緯82.4度の地点で旗を振り、「最北端の気候変動抗議活動|most northerly climate protest」を行った。

「北極での経験は期待通りでした。でも暖かい服をたくさん持っていたので、-17℃でもそれほど寒くは感じませんでした。どうしても見たかった鳥が3種いて、ハシブトウミガラス、ヒメウミスズメ、ゾウゲカモメの3種全てを見ることができて本当に嬉しかったです」

「氷塊の上に踏み出したとき、とても興奮しましたが、氷の下には水が速いスピードで流れていて、氷が溶けて割れる音がしました。何時間も氷の上に座っていたので、最後はかなり寒かったです」

「船はすぐ近くに停まっていて、船上の全員でホッキョクグマが周りにいないか注意してくれていました。やはりどこからともなくホッキョクグマが現れる可能性があることはかなり怖かったです!」


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絶滅危惧種のヘラシギの調査にて、2015年バングラデシュ

グローバルな問題

クレイグは、気候変動とは北極圏のような遠く離れた場所で起こっているだけではなく、彼女の親族を含む世界中の人々の日常生活にすでに大きな影響を与えていると強く語る。

「私の母の家族はバングラデシュ北部の出身です。2018年、祖父の村で季節外れの鉄砲水が発生し、作物が流されてしまい、次の収穫のために植える米がなくなってしまいました」

「バングラデシュは、気候変動の影響を最も大きく受ける国の1つです。多くの土地が水没し、サイクロンの強度が増し、何百万人もの人々が家を失い、土地を失うでしょう。実は首都ダッカにはすでに400万人の気候変動難民がいます」

クレイグによると、イギリスを含め、気候の緊急事態を回避できる場所はどこにもないとのことだ。「私たちはブリストルの南に位置するチュー・バレーに住んでいますが、大雨の後には鉄砲水が起こります。私たちの土地は川に変わり、道路は通れなくなります」と彼女は言う。

将来待ち受けているのは...

彼女はすでに多くのことを成し遂げたかもしれないが、その栄光に満足することはないようだ。10年後に「環境保護、反人種差別、人権擁護において、声を上げることのできない世界中の人々のために闘う運動家」になっていることを目指している。

自分のメッセージを発信できるようメディアを利用してアナウンサー、作家、演説家にもなりたいと思っています。

鳥類は種が多く、またその多くが簡単に訪れることのできない場所にいる。まして野生動物に出会うこと自体に保証なんてない。そんな中で世界中の全ての鳥を見つけることは無謀な挑戦なのかもしれない。

しかし、かつては、平等や気候変動の認知を求めることも同じことが言えたはずだ。何が可能で何が不可能なのか、その領域は常に変化している。しかし、バードガールほど意欲的であれば、不可能を可能にするために必ず全力を尽くすことであろう。

ギネス世界記録の書籍に載ったことを本当に誇りに思っています。とても光栄なことですし、北極への旅が紹介されたことはとても重要だと感じています。これで、より多くの人々が北極が抱える問題について知ることができるでしょう。

- マイア・ローズ・クレイグ

マイア・ローズ・クレイグ博士の偉業は、書籍『ギネス世界記録2022』の130ページに掲載されている。

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