書籍『 ギネス世界記録 2017 』掲載!

※当エントリーは、発行時点の情報です

“世界一、世界記録という奇跡を招くには、日々の努力の蓄積がないと呼び込めない”


2015年9月8日、埼玉県行田市は「最大の田んぼアート(Largest rice field mosaic)」というタイトルで、ギネス世界記録に認定されました。27,195平方メートルに及ぶアートを完成させたこの記録ですが、実はプロジェクト化されてから無事認定に至るまで、5年という長い道のりがありました。田んぼでアートを描くという性質ゆえ、相手は自然。雨による水害や記録的猛暑による生育不良に見舞われて何度も失敗しましたが、決して成功まで諦めませんでした。今回は、ギネス世界記録挑戦の立役者となった「田んぼアートづくり体験事業推進協議会」の小林乙三さん(推進役)をお中心に、江森裕一さん(広報担当)、沼上礼奈(イラスト担当)に話をうかがいました。何度失敗してもリベンジして成功に結びつけてゆく、その秘訣とは?ギネス世界記録に認定され、遂に世界一の座へと輝くまでの道のりとは?


580_gyoda10a.jpg 話を聞いたプロジェクトの推進役の小林乙三さん。行田市役所では環境経済部長でもある。


ギネス世界記録を行田市として挑戦しようとした経緯を教えていただけますか?


行田市では2008年から「田んぼアート事業」に取り組みました。行田産の「彩(さい)のかがやき」をはじめとする美味しいお米をPRするとともに、農業体験を通じて市民の交流を図るためです。


すると、2011年には日本各地に100ヵ所くらいある田んぼアートのなかで、どうやら行田市のアート面積が日本一になったことを知り、どうせならギネス世界記録を目指そうとなったわけです。当時、誰にも相談せずに、自らギネスワールドレコーズの英国本社に連絡を取り、新たな記録カテゴリーを創設してもらって挑戦が始まりました。


なかなか1人で挑戦するのは限界があると思いますが、最終的にはどんな方の協力があったんですか?


まずは、市長に相談しました。市長も性格的にチャレンジが好きなので、だめもとでやってみろと理解を示してくれまして。その後、田んぼアートということで、田んぼ農家の方にギネス世界記録に挑戦することを伝えました。


そうすると、「頑張れ、一肌でも二肌でも脱ぐ」って応援してくれて、稲の栽培などを手伝っていただきました。また、全国各地の苗の特徴を調べて、どの稲穂がどの色味を出すのか徹底的に調べ、東北地方の農家の方には、白い苗、黄色い苗など強そうな種を抜粋して譲っていただきました。田植え自体はボランティアや田植え体験の参加者、総勢813人にご協力いただきました。なかには、他県から参加してくれる方や外国の方もいましたね。


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毎年、田んぼアートの絵柄が変わっていますが、それぞれの絵柄にどんな気持ちが込められているのですか?


基本的に行田市にちなんだものをデザインしています。当初は古代蓮公園の古代蓮の図柄にしました。また、行田市は史跡と古墳の街なのですが、歴史小説『のぼうの城』の舞台でして、3年目以降はしばらく『のぼうの城』をPRするデザインにしました。


2011年に東日本大震災が起こると、急遽、「がんばろう 日本」と入れまして、東北の応援をさせていただきました。その後は、蓮の精など古代をイメージした柄。今年は、「未来へつなぐ古の軌跡」をテーマに、古代蓮、地球、子どもたち、はやぶさ2を市役所に勤める沼上礼奈がデザインしました。


580_gyoda_illustrator.jpg イラストを担当した沼上礼奈さん。普段は、行田市総合政策部秘書課に勤務する。



「町おこし」の世界記録に挑戦する

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2011年にギネス世界記録のプロジェクトを掲げ、やっと2015年に記録認定となるわけですが、なぜ5年もの月日がかかったのですか?


2011年にギネス世界記録に挑戦しようと思ったのですが、敷地に対してアートの図柄が40%というガイドラインが定められていて、計測したところ38%しかなかったため断念。その翌年の2012年にはこれならいけるだろうという形をデザインして、田植えをしたのですが、ガイドラインが変わったと連絡があり、次は背景が40%以下でなきゃいけないということで・・・。


逆に言うと、図柄は60%以上なくちゃいけないということになってしまったんですね。前の基準に合わせて作っていた関係上、その当時の図柄が50%ちょっとしかなく、世界基準に満たないということで断念しました。


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本格的なギネス世界記録挑戦は2013年になってからだったのですが、いざ公式認定員の方に行田市に来てもらい、審査してもらうと、部分的に稲の生育不良があり地面が見える部分があったため、認定に至りませんでした。つまり、アートという性質上、大きな絵画の中に穴が空いているのと同じ、完全な絵じゃないという理由でした。


99点はダメ、100点じゃないといけないと指摘されたのです。これは厳しいなと。悔しさもすごくあったんですけど、そのときにリベンジを決心し、市長に再挑戦していいか聞いたら、いいよって言ってくれたので、チャレンジ続行させていただきました。


再挑戦するためには、今度はもう、苗のつくり方から勉強しようと。そういう風に準備に1年かけて、専門家の意見を聞いたりして、翌年は準備万全でした。しかし、田植えをする直前に大雨が降ってしまいまして・・・。


雨で栄養豊富な土が全部流され、修復しようとしたのですが、どういうふうに手を入れても再生が難しいということで、2014年は挑戦を諦めざるをえませんでした。それで、1年明けて、やっと2015年、今回の成功に至りました。


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ギネス世界記録認定証を授与された時、どんな気持ちでしたか?


本当に嬉しかったですね。公式認定員の方に「おめでとうございます」と言われた瞬間、「うわぁー」って。笑 実はその時泣きたくなってしまったのですが、マスコミ対応とか色々あったので我慢しました。本当に嬉しかったですよ。


足掛け5年ですからね。熱中症に耐えながら、死ぬ思いで真夏の作業を皆さんとやってきたんですけど、このような努力をしてきたので、今回の認定は、ご褒美かなと思っています。やっぱり、努力は報われますね。やった甲斐がありました。


「最大の田んぼアート」がギネス世界記録に認定された月には、田んぼアートを見に来た来場者が4万人超になり、これは前年の4倍以上ということですが、今回、行田市にとって、どんな町おこし効果があったと思いますか?


ギネス世界記録の認定後、行田市の知名度もすごく上がりました。市民もすごく喜んでくれていますし、参加者もやった甲斐があったと言っています。


また、『のぼうの城』が映画化され、「行田市ってどこ?」と聞かれた時に、2012年に「のぼうの城の町だよ」と言えるようになり、子供たちが喜んだというエピソードがあるんですね。今回の田んぼアートも世界記録を取って、認知度も上がったので、そういう意味で自分の町に誇りを持てるようになったのかなと思います。自分の町を紹介するときに、堂々と紹介できるかなと。


それと、田んぼアートを見に並んでくれるお客さんの中には、5km離れた忍城を見学したり、市内の商店や食堂に行ったり、観光スポットだけじゃなく街中にも足を運んでくれる方が多いので、そういう意味で、良い町おこしになったと思っています。4万人もの人が田んぼアートを見に来てくれましたが、展望台までのエレベーターが長いときで3時間半待ちとなってしまったので、入れなかった人も数えたら、その倍はいたのではないかと思います。

また、次の田んぼアートの準備を今から始めていますが、認知度が上がったおかげで、実は田植えの申し込み者が殺到しているんです。今年の参加は抽選制になるかもしれません。嬉しい悲鳴ですね。正直、ギネス世界記録に認定されて、ここまで効果が出るとは思っていませんでした。


580_gyoda12.jpg 真ん中で語るのは、広報を務め、大きな役割を務めた江森裕一さん。同じく行田市役所勤務。



数あるギネス世界記録のなかで、行田市さんのこの挑戦というのは、何度も失敗しているのに挑戦し続けたという点で珍しいのですが、今回の挑戦を受けて感じたことがありましたら教えてください。


とにかく成功するまで大変でした。自然相手なので、1年に1回しかチャンスがないわけですから。そのチャンスまでに、ちょっと駄目になっちゃうってのもありますし、自然の力には抵抗できませんしね。


また、行田市は何回もリベンジと言われていたわけですが、挑戦するごとに、ギネス世界記録に対する個人的な評価が上がっていきました。毎回今度はいけるかなって思っていたら、すごく厳しい審査があって・・・。世界基準っていうのはこういうものなのかなと厳しさを知りました。本当にパーフェクトな奇跡が起こらなきゃ、世界記録は成しえないんだろうなと。


奇跡を招くには、日々の努力の蓄積がないと呼び込めないのかなと痛感しましたね。今回の挑戦は普段色々努力を重ねて、コツコツとやっていったおかげで運も味方してくれました。


ギネス世界記録を狙っている方はたくさんいらっしゃると思います。普段努力をしたなかで、パーフェクトになって世界記録となるわけですから、ギネス世界記録を目指される方は、目指す努力を惜しまないでください。われわれは今回、ギネス世界記録に認定されたわけですが、それを枯らさないためにも、これまで以上に努力をしなくてはいけないと考えています。



あちこちでギネス世界記録を狙っている方はいらっしゃると思います。普段努力をしたなかで、パーフェクトが世界記録となるわけですから、目指すためには目指す努力を惜しまないでください。今回われわれはギネス世界一になったわけですが、枯らさないためにも、これまで以上に努力をしなくてはいけないと考えていますね。

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小林さんは2011年当初、誰にも相談せずにギネス世界記録挑戦を決めたところから、他の人を巻き込んで実際に今回のプロジェクトを成功させました。どのように周りを説得して、やり抜けたのでしょうか?他の人とは違う資質のようなものがあるのでしょうか?


私は性格的に、言い出したらやり遂げないと気がすまないんですね。何があっても自分が納得するまで、たとえそれが最終的にゴールに辿りつけないとしても、自分的に納得できるところまでやりたいというのが私の性格です。


人にお話するときも当然、自分の思いがあるので、ちょっと熱弁的になったり、色々説得もしたりするわけですけど、相手には情熱が伝わるようです。自分でやりたいと思ったことには、すごい情熱を傾けるので、自分の本性をさらけ出しながらお話しするところが効果的だと思います。


やっぱり隠してもしょうがないじゃないですか。自分が思っていることを伝えれば、相手も本気で考えてくれる。だから、よくいう、おべっか使うってことは一切なくて。そうすると相手も腹の内を見せてくれるんです。


それでお互い納得すれば、力が1人よりも2人、2人よりも3人と、どんどん掛け算になっていって、力が大きくなっていくんです。それと、何回もギネス世界記録に失敗しても、周りがついてきてくれたのは、私自身周りの人や環境に恵まれていたと思います。



最後に、これからギネス世界記録に挑戦する方に向けて一言いただきたいのですが、どんな人が世界一になれるって思いますか?


努力を惜しまないで、切磋琢磨して、高い目標に向けて努力していけば、必ず報われるんじゃないかと思います。1人の情熱から始まり、その思いに共感した人たちが協力し、今では世界に届く絵となった田んぼアート。今後も行田市の田んぼアートのから目が離せません。


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  • 記録名:Largest rice field mosaic
  • 記録:27,195 square metre(s)
  • 記録保持者:Committee for Promotion of Rice Cropping Experience through Rice Field Art, Japan
  • 挑戦日:2015年9月8日
  • 記録のタイプ:町おこしの記録, 農の記録, 自然の記録, モザイクの記録



ギネス世界記録で地域活性『町おこしニッポン』とは?

ギネス世界記録は、日本全国の地域活性のキッカケとなる世界への挑戦を応援しております。

 


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