Longest cooking marathon-thumb2

島根県松江市でレストランを経営するアラン・フィッシャーさんが、ギネス世界記録「最長の料理マラソン(個人)|longest cooking marathon (individual)」および「最長のパン作りマラソン(個人)|longest baking marathon (individual)」を達成しました。料理マラソンの記録は、なんと119時間57分!パン作りマラソンの記録でも驚異的な47時間21分を記録しました。

しかもアランさんは、2つの記録挑戦の間にとった休みは、たったの1日程度だったのです!

アイルランドの「我が家」を日本で

アランさんは2008年、ダブリンシティ大学を卒業しました。卒業を前にして、新しいチャレンジを求めていた彼は、当時アイルランド政府機関が行っていた卒業生海外プログラムを利用して、東京の会社から内定をもらうことができたそうです。 

それから6年半、東京での生活にも慣れ、結婚もしました。しかしアランさんは、何か物足りなさを感じていました。

「結婚式の後、友人や家族を見送って、一種の閉そく感に見舞われました。このまま仕事を続けて、子どもを持つのが私の人生なんだろうか、と。新たな挑戦を期待していたのかもしれません」

Longest cooking marathon-8

2014年8月、アランさんはビジネスを立ち上げることにあいました。故郷のアイルランドをビジネスの主軸にすることに、迷いはありませんでした。

私はアイルランド出身であることを誇りに思っていますし、故郷の文化をみんなとシェアすることが大好きです。そして「食」は私にとって、故郷との接点なんです。

巨人のシチューハウスでは、シチューやスープ、手作りパン、イモといった、アイルランドの家庭では欠かせない要素の一部を大切にしています。アランさんによると、レストランの空間は、まるでアイルランドにある彼の実家に来たかのような感覚だと言います。

記録を挑戦するまで

そんなアランさんが料理マラソンの記録の存在に気付いたのは、2023年3月のこと。東京の代々木公園で開催された「アイ・ラブ・アイルランド・フェスティバル」で店を出していたとき、およそ2日間キッチンカーに立ち続けたのです。それをきっかけに、長時間料理をし続ける世界記録を調べたそう。

Longest cooking marathon-2

一方で、アランさんはCOVID-19のパンデミックの影響で、厳しい運営を強いられ続けていました。

「特にオミクロンが流行し、自治体が施策をしたときは心が打ち砕けそうでした。ここまでがんばって、貯金も給料も犠牲にしたのに、経営を維持するためだけに緊急貸付を使用する必要があったし、いつ出口が見えるのかもわかりませんでした。受け入れるのが難しい状況でした」

Longest cooking marathon-6

事態は改善してきたものの、悲観的な気分はなかなか晴れなかったと言うアランさん。抱えていたネガティブな感情を、ポジティブなものに変えるために、記録挑戦することにしたそうです。

いざ挑戦すると決めると、準備の段階からその大変さを思い知ったと言います。特にできた料理を全く廃棄できないというルールに沿えるか、当初は不安もあったよう。「(できた料理は、来たみなさんに持ち帰ってもらう計画だったので)松江市のみなさんが来てくれて、私の挑戦を応援してくれることが、記録達成の条件の1つでした」

また、記録挑戦中の一部始終は動画に納めなければなりません。そのためアランさんは、以前レストランの特集を組んでくれたTSKさんいん中央テレビに相談すると、すぐ協力してくれることになったそう。「この記録をサポートするために、テレビ局はスタッフと資源を投入してくれたんです。心から感謝しています」

Longest cooking marathon-4

記録挑戦時もいくつものハードルを越える必要がありました。例えば「最長のパン作りマラソン(個人)|longest baking marathon (individual)」では、手でパン生地をこねていたため、腰痛に悩まされました。「最長の料理マラソン(個人)|longest cooking marathon (individual)」の挑戦終盤では、眠気に耐える必要があったそう。そして一度、あまりにも疲れてしまい、後ろに誰もいないのにも関わらず、いるかのように声をかけてしまったとか。

Longest cooking marathon-7

それでも最後まで挑戦をやりきることができたのは、松江市の人たちのあたたかさがあったからだと言います。

「挑戦を通じて、私は自分と家族、アイルランドの食事、そして私たちのストーリーを伝えていました。時間が経つにつれ、松江市にいる多くの人たちが私を応援してくれていることを強く実感しました。故郷から遠く離れたこの土地で、私を心から受け入れてくれたような気分でした。だから、あきらめるなんてことは考えられませんでした」

Longest cooking marathon-9

2つの記録挑戦が終わるまで約9日。アランさんは357 kgのパンと、590 kgの食事を作りました。さらに、2つの公式認定証も手に入れることができました。

記録は破られるためにあります。でも少なくとも今だけは、この2つの認定証を持つことができます。今まで抱えていた不安やストレスがあっても、目の前のことに集中する。記録更新は、私たちのストーリーのみならず、松江市とアイルランドの接点についても伝えられる機会にもなりました。