Craig Glenday split image

ある日、履歴書を小脇に抱えたクレイグ・グレンデイは、ギネスワールドレコーズのオフィスにアポなしで出向き、長年の夢に挑むことにしました。

その大胆なアプローチは功を奏し、20年後、彼は子供の頃、毎年クリスマスにもらうのを楽しみにしていた書籍『ギネス世界記録』の編集長を務めることになります。

グレンデイはギネスワールドレコーズの編集長。ギネス世界記録のSNS動画に登場し、度々記録保持者たちと一緒に並んでいることから、ギネス世界記録のファンなら誰しも一度はその顔を見たことがあるはずでしょう。

今回その彼が、ギネス世界記録での仕事の舞台裏を紹介し、過去20年間のキャリアで特に心に残っている瞬間を、この記事を通してみなさんと分かち合います。


世界で最も背の高い人や、最も小さい人を測ったり、世界中の大スターと肩を並べたり、6万件に及ぶ記録を調べて最新の本を作ったり。グレンデイは自分の仕事を心から楽しんでいます。

ギネス世界記録のウェブサイトの編集者としてキャリアをスタートさせたグレンデイは、常に挑戦の下に潜む物語を発掘することで、多くの人々にその感動を共有してきました。

「ある日、履歴書を持ってオフィスのドアを叩き、コンテンツ担当の副社長に会いたいと言ったことから、この仕事を得ました」と語るグレンデイ。

公式認定員のユニフォームを着たクレイグ・グレンデイ

「出版社で働いていたとき、友人がギネス世界記録の書籍の挿絵を描く仕事に就いたばかりで、この世で一番楽しそうな仕事だと思ったんです。なので、その友人に、何かあったら教えてと頼んでいたんです」

それからわずか2カ月後、グレンデイは舞い降りてきたチャンスに飛びつきました。

「ウェブサイトの編集者が、全国規模のスタンドアップコメディコンテストで2位になった後に退任したんです。なので、ポジションの空きがあることは知っていました」

「喉から手が出るほど記録が欲しいという人が、直接オフィスに交渉に現れたことが何度かあります。その気持ちは、同じことをしたことがある人間として、よくわかります」とグレンデイは話す。

「あるフランス人は、パリからヒッチハイクでやってきて、オフィスの外でフランス語の看板を掲げ、ずっと立ったまま、我々が彼に気づくのを待っていました」

当時の「存命中の最も背の低い男性」記録保持者、ヘ・ピンピンを計測するクレイグ・グレンデイ(2007年)

クレイグ・グレンデイとデヴィッド・ハッセルホフ

「私はオフィスの外に出ました。フランス語は得意ではありませんが、彼が世界で一番きれいな入れ墨を顔にしていると自負していることは、十分に伝わりました」

「残念ながら、美しさは数値化できるものではないので、実際に審査できる記録ではありません」

それでも"美しさの数値化"は、もともと双子の弟のロスとともにこの本を編集していたノリス・マクウィルターと一緒に一度検討したことがある、とクレイグは語りました。

アーロン・スタダムのモヒカンを測定するクレイグ・グレンデイ(2005年)

「ノリスは、昔トロイにいた、ヘレンという女性が、そのあまりの美しさに1000隻の船を沈めさせたという考えに基づいて、美しさは数字で測れるのではないかと考えたのだと思います」

「何年も前に、ギネス世界記録の書籍の中で、『1ミリヘレン』が美しさの単位だと言いましたが、もちろんそれは真面目に言ったものではなく、ちょっとした遊び心でした」

マクウィルターは残念ながら2004年に亡くなりましたが、グレンデイは、編集長に就任した時期を彼と一緒に過ごせたことを、とても光栄に思っていると話します。

「彼は私にバトンを渡してくれているような気がしました」と言うグレンデイ。「私は、彼とロスが一緒に作った本、つまり私が80年代に読んで育った本のようなものを作りたいとずっと考えていたので、光栄でした」

クレイグ・グレンデイと最重量級選手マヌエル・ウリベ(2006年)

クレイグ・グレンデイとメイジー・ウィリアムズ

「ギネスワールドレコーズのオフィスは、伝説の象牙の塔、天空の城のようなものだとずっと思っていました。そんなところでノリスと一緒に働けて、なんだか現実味がありませんでした」

グレンデイは、多くの歴史的な記録破りの瞬間に立ち会うことができて、「ラッキー」だと語ります。

「私はこれまで、最も背の高い人、最も低い人、最も重い人の体重を測定してきました。こういった、身体に関する記録はやはり印象に残っています」と続けるグレンデイ。

「子供の頃、爪の記録の写真を見て、すっかり魅了されたのを覚えています。実際にその記録を持つ人々に会うことができると、とても感動します」

クレイグ・グレンデイとカール・ピルキントン、スティーブン・マーチャント、リッキー・ジャーヴェイス

彼らは一般的な意味での『有名人』ではありませんが、確実に唯一無二の存在であり、実際に会うとそこには息を呑むような瞬間があり、ただ『すごい』と思わされるんです。

「この本で残念なのは、それぞれの記録についてほんの2、3文しか書かれていないことですが、記録保持者の人生談はとても魅力的で、信じ難い瞬間がたくさん隠されています。」

もちろん、『一般的な意味での有名人』にも、グレンデイはたくさん会ってきました。

「彼らの方が私に出会ったと思いたいですね」と、クレイグは冗談めかして笑います。

クリストファー・リーと剣で戦うクレイグ・グレンデイ

「実際に会う彼らは、ただただとても楽しい人たちで、少し驚きさえもします。ワールドミュージックアワードの舞台裏でビヨンセと話したり、チェルシーのプライベートホテルでクリストファー・リーと剣で戦ったりすることは、そうそうないことですから」

グレンデイは、X-MENのヒュー・ジャックマンがインタビューを受けている際、トイレに隠れ、サプライズで「マーベルの実写スーパーヒーローとしての最長キャリア記録|longest career as a live action Marvel superhero」を渡したり、歌手のケイティ・メルアが「最も深い場所で行われた水中コンサート|deepest underwater concert」記録を達成する前にヘリコプターの衝突訓練を受けたり、ロックバンドFall Out Boyと南米のホテルで雪中泊し、自分がバンドのメンバーだと勘違いした客にサインをしたこともあります。

セレブリティと何度も対面してきたグレンデイですが、これまでのキャリアで最も忘れられない瞬間の1つは、存命中最も背の高い男性であるスルタン・コーセンと、史上最も背の低い男性であるチャンドラ・ダンギと一緒に行動したことだと言います。

トルコとネパール出身のこのスーパーコンビは、2014年に開催された第10回ギネス世界記録の日のためにロンドンを訪れ、グレンデイを間に挟み、並んで歩き、彼にとって忘れられない瞬間を演出しました。

また、オフィスでの印象的な1日、かつおそらくグレンデイの審査員としてのキャリアの中で、最も奇妙なリクエストは、最もピアスの多い男性、プリンス・アルバートことジョン・リンチのピアスを数えたことでした。「ジョンはオフィスに現れ、受付でいきなりパンツを脱いだんです」とグレンデイは振り返ります。「なので、即座に会議室に連れていきました。幸いなことに、ゴム手袋がオフィスにあったので、それを付けて、全身のピアスを数えました。彼は結局、240個以上のピアスをつけており、この記録は達成されました」

最も背の高い人、最も背の低い人、そして最もピアスの多い人などの記録は、言わずもがなですが、グレンデイは長年にわたり、いわゆる"おかしな記録"についての問い合わせも何度も受けてきました。

そういった質問に対し彼は「でも、私たちは昔から"おかしな記録"を取り扱っているじゃないですか」と返します。

そして、グレンデイはこう続けます。「ギネス世界記録の初版を見ると、揺り椅子マラソンやパイプ喫煙、リンゴの皮むき、奇妙なものを集める人々など、さまざまな記録が載っていますよ」

クレイグ・グレンデイとヒュー・ジャックマン

クレイグ・グレンデイと最もピアスの多い女性 エレーン・デイビッドソン

「大事なのは、測定やカウントが可能であれば、何が正しい、何が間違っているなんてことはないということです。それこそが『ギネス世界記録』の本質だと思っています。もし過去に受け入れられなかった記録でも、世界は常に進化を続けていて、今なら記録として成立するものもたくさんあります」

さらに、「人々が何をしているかを記録するのが、我々のミッションです。それを記録に反映させるのが私たちの仕事です。だから我々は彼らの功績を審査し、書籍に残す義務があるのです」

ニュースを見るとしんどくて気が重くなることが多々あります。しかし今この瞬間にも、何百万人もの人々が、ワクワクすることに挑戦していて、ギネスワールドレコーズにいる私たちは、それを目の当たりにしているのです。

「死ぬまでの間、私たちは気を紛らわす必要があるわけですから、それなら楽しくてエキサイティングなことをしたらどうだろう、と思うんです。少し風変わりに見られても、あなたが楽しむのはあなたの勝手で、他人はあなたのことを放っておけばいいんです。何をどう楽しむかを決める権利は、あなた以外、誰にもないのですから」

クレイグ・グレンデイとスルタン・コーセン、チャンドラ・ダンギ

クレイグ・グレンデイと最もタトゥーの多い人 ラッキー・リッチ

「私たちは皆、最後には死にますが、この人たちはちょっとした不老不死だと思いませんか?」とグレンディは言います。

「ヘミングウェイの『人は2度死ぬ。1度は実際に死ぬとき、そして1度は誰もあなたのことを話さなくなったとき』という言葉を考えていました。この記録保持者たちは、本に載ることで、そしてギネス世界記録に認定されることで、不死身の生を手にいれるのです。私たちは、普通の世の中によって見逃されないように、不死を授けているのかもしれません」

そして、グレンデイは、ある人にとっては「くだらない」ことでも、他の人にとっては「本当に大切な」ことであり、人間は、自分たちを唯一無二の存在にするものを大事にすることが大切なのだと語っています。

クレイグ・グレンデイとウィリアム・シャトナー

カナダのCNタワーの1,899段の階段をポゴスティックに登ったり、誰よりも長い爪を伸ばしたり、チョコレート・バー「カーリーワーリー」をどれだけ長く伸ばせるか、なぜそんなことに挑戦するのかわからないと思ったときは、グレンデイのように、ただ楽しんでみてはいかがでしょうか。

そんなグレンデイがこれまでに出会った素晴らしい人たちの中で、一番感動したのは、宇宙飛行士だと言います。

「ずっと、バズ・オルドリンに会ってみたかったんです」と話すグレンデイ。「彼は今でも宇宙旅行に情熱を捧げていて、それについて彼と話せたことは、何よりもの特権でした」

「私の一番の宝物は、宇宙飛行士との自撮り写真のコレクションと言えるかもしれません」

残念なことに、グレンデイはまだコレクション記録に値するほどの枚数を持っていませんが、しかし、彼はコレクションを増やす努力を続けるつもりです。