新しく制定された祝日「山の日」(8月11日)まであと一年を切りました。少し気が早いかもしれませんが、新たな祝日を記念して今回は登山歴9年のギネスワールドレコーズの舩津明日美によるセレクト、「山好きにオススメのギネス世界記録」をご紹介します。 皆さんご存知、世界一高い山のエベレストもギネス世界記録に認定されていますが、今回は「人」である挑戦者に注目します。ギネス世界記録保持者たちは、どんな想いで山で挑戦を行ったのでしょうか。個人による記録から、団体による山を舞台にした挑戦まで、様々なギネス世界記録をお楽しみください。

書籍『 ギネス世界記録 2017 』掲載!

※当エントリーは、発行時点の情報です

個人で挑戦

  • 三浦雄一郎さん

エベレストに登頂した最高齢の男性/標高8000m以上の山に登頂した最高齢の男性
Oldest person to climb Everest (male)/Oldest person to climb a mountain over 8,000 m

2013年の5月23日、冒険家の三浦雄一郎さんは80歳でエベレストに登頂し、「最高齢でエベレストに登頂した男性」としてギネス世界記録に認定されました。実は三浦さん、最高齢に認定されるのは初めてではありません。70歳と75歳の時にもエベレストに登り、その度に当時の最高齢として世界記録を更新しています。何故、三浦さんは命のリスクを負う、過酷な記録に挑戦し続けているのでしょうか。健康や体力のことを考えると、年を重ねてからの5年という年月は非常に重い数字です。三浦さんも例外ではなく、持病に不整脈を持ち、心臓の手術を行っています。そのため、心配したご家族は80歳での挑戦を止めようとしたそうです。

しかし、既に火のついた冒険家の魂を止めることはできませんでした。幾度にも渡る挑戦の背後にあった想いは、この言葉に尽きるのではないでしょうか。
「老いは怖くない。目標を失うのが、怖い!」


  • 田部井淳子さん

初めてエベレストに登頂した女性/初めて七大陸最高峰を制覇した女性
First Everest ascent (female)/First female to climb the Seven Summits

遡ること1975年の5月16日、世界で初めてエベレストに登頂した女性は、日本人の田部井淳子さんです。あの有名なヒラリー卿とテンジンシェルパによる人類初のエベレスト登頂から22年後、田部井さんの登頂は世界を驚かせました。その後もさらなる挑戦を続け、1992年の6月28日には「初めて七大陸最高峰を制覇した女性」としてもギネス世界記録に認定されています。田部井さんは我々のインタビューの中で、このように語ってくれました。

「私は心から湧き上がる好奇心で、山を登り続けています。一見、不可能だと思えることが、調べたり努力したりする過程で、徐々に可能になっていく、その過程がとても好きなんです。だから、私の場合、好奇心を追いかけた結果、ギネス世界記録みたいな有名なものとしても認定され、世界初と言われるようになったというだけなのです。本当はただの私の趣味なんです(笑)。自分の心を満足させるためだけにやってきました。本当にやりたいと思っているものがあるから、それを悔いなくやり遂げたい。ああ、生まれてきてよかった。そういう風に、毎日という自分の歴史を積み重ねていきたいんです。」


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  • エリック・ワイヘンメイヤーさん

初めてエベレストに登頂した盲目の男性
First blind man to conquer Everest

続いて、エリック・ワイヘンメイヤーさんの記録をご紹介します。アメリカ人のエリックさんは13歳の時に両目の視力を完全に失いました。今まで見えていた色鮮やかな世界が、暗くなる。そんな中でエリックさんは32歳となった2001年にエベレストに登頂し、「初めてエベレストに登頂した盲目の男性」としてギネス世界記録に認定されました。エリックさんはエベレストだけではなく、その後、7大陸最高峰も制覇。エリックさんが視力を失ってから、山に挑戦しようと至るまで、一体どのような道のりがあったのでしょうか。

きっかけは点字で届いた「目の不自由な子供たちで行くロッククライミングツアー」の案内だったと言います。エリックさんも「目が見えないのにロッククライミングに連れて行くなんて、なんてクレイジーなんだ!」と最初は驚いたそうです。しかし面白そうだと思って始めて、指先の感覚頼りに登ることができるロッククライミングは、実は目が見えないというハンディキャップを感じさせないスポーツでした。自分の成長を感じる中で、エリックさんは自分の限界を決めずに可能性を試していきたくなったと言います。そして挑戦したのがエベレストへの登頂でした。コチラの映像も是非、ご覧ください。

恐るべき行動力の持ち主だと思いませんか?私のとても好きなギネス世界記録の一つです。

エリックさんは現在も、”What's within you is stronger than what's in your way"(目の前を塞ぐ壁よりも、あなた自身の可能性の方が大きい)という言葉をモットーに、様々な活動を続けています。

  • トム・ランカスターさん

最も速くインドアクライミングウォールでエベレストの高さを登ったタイム
Fastest time to climb the height of Everest on an indoor climbing wall

イギリス人のトム・ランカスターさんは「最も速くインドアクライミングウォールでエベレストの高さを登ったタイム」という記録に、2011年3月11日から12日にかけて挑戦しました。インドアクライミングウォール8,848m分の高さを13時間25分のタイムで登り、ギネス世界記録に認定されました。

どんな記録挑戦にも背景があります。トムさんがこの記録に挑戦しようと決意したのも、ある出来事が影響していました。それは2009年に37歳の若さで雪崩に巻き込まれ、命を落とした、友人の登山家、ルパートさんの事故。この記録挑戦は、亡きルパートさんに捧げられたものでした。

登山中の悲しい事故が少しでも減ってくれればと、トムさんはチャリティーも実施。この記録挑戦を通じて集まった約100万円(5537ポンド)は、イギリスの山岳遭難者捜索団体など三つの団体に寄付されました.


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山を舞台にしたギネス世界記録

  • スイス - ツェルマット

最大のアルペンホルンの合奏
Largest alphorn ensemble

ここからは直接山に関する記録ではないですが、山を舞台にした世界一への挑戦をご紹介します。

2009年8月20日、スイスのツェルマットで標高差1485mあるゴルナーグラート鉄道の111周年を記念して、最大のアルペンホルンの合奏の記録挑戦が行われました。20分にわたって6曲のアルペンホルンの合奏が山の中に響き渡り、演奏者366人でギネス世界記録に認定。標高4478mのマッターホルンをバックにした夏の青空の下での写真は、山好きにはたまらないですね!迫力の演奏を聴いてみたかったです。


Largest alphorn ensemble

  • 徳島県 - 剣山

最長の指切りチェーン
Longest pinky swear chain

山を舞台にした世界記録への挑戦は、日本でも行われました。場所は徳島県最高峰の剣山です。2014年7月29日、剣山国定公園50周年を記念して、徳島県観光協会が企画し、徳島県の中学生たちが仲間との絆を深めるためにギネス世界記録に挑戦しました。

それぞれの中学校が違うルートでまずは山頂を目指し、他校の生徒と気持ちをひとつにして、挑戦した世界記録は「最も長い指切りチェーン」。全員の小指と小指を繋ぎ、1分以上指切りを続けて誓いを結ぶという記録です。

「私たちは剣山の自然を守り、友達を大切にすることを誓います!」

一分間の指切りのあと、生徒全員で声高らかに宣言しました。さて審査の結果は?

その場に立ち会ったウカソヴァ公式認定員が「おめでとうございます!」と発表したその瞬間、生徒331人が見事ギネス世界記録保持者になり、大きな歓声が上がりました!

実は多くの生徒たちにとって、近くであるはずの剣山に登るのは初めてだったそうです。世界記録への挑戦をきっかけに、地元の山の良さを感じることができたのではないでしょうか。

この挑戦の後は、未来の自分に宛てた手紙をタイムカプセルに入れて、山頂近くの剣山本宮宝蔵石神社に奉納しました。東京オリンピックのある2020年に開封する予定だそうです。残念ながら、「最長の指切りチェーン」の記録は2015年5月24日にアメリカで記録が785人に更新されていますが、世界記録達成、そして剣山登頂の思い出は確かに生徒たちの中に残ったと思います。


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まとめ

このように一言で「山」といっても、たくさんのギネス世界記録があります。その中から私のオススメを選んでみました。お楽しみいただけたでしょうか?

「ギネス世界記録」の本の中には、登山家や冒険家による記録がまとめられた「冒険」ページが毎年のように特集されています。私も小さい頃、ページを眺めては「世界にはこんなことができる人がいるんだ!」と夢中になって読みました。ギネスワールドレコーズに入社した際も、「冒険が好きです!挑戦する人が好きです!かっこいいです!」と熱く語った記憶があります。もしかしたら大学で登山を始めたのも、昔読んだ本の影響があったのかもしれません。

「ギネス世界記録」の本を開くと、多様な人生に触れることができ、読んでいるだけで冒険している気分になります。本当に様々な記録が載っていて、面白いです。(約4万件ある記録の内、毎年約4000件が紹介されています)

山好きの方は是非一度手にとってみてください。そして、例えそれが世界記録ではなくても、何か挑戦してみたいなぁ!と思ってくれたら、とても嬉しいです。

それでは、いつかどこかの山でお会いしましょう!


【編集部・舩津明日美】
 
2016年9月8日発売『ギネス世界記録2017』には、様々な記録を収録しています。詳細は、コチラへ。


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