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ギネス世界記録は、記録保持者一人ひとりのユニークな長所を『世界一』として正式に認め、素晴らしいこととしてたたえるためにあります。

しかし、中には、特定の記録を、「くだらないもの」と指摘する人もいます。

そのような人たちは、これらの記録ひとつひとつに、切実な理由があることに気づいていないのかもしれません。

そこで今回は、記録管理部のディレクターであり、イギリスのテレビ番組「A League of Their Own」に公式審査員として出演した経験もあるマーク・マッキンリーに協力してもらい、「くだらない」記録の魅力に迫ります。

「ガンジーの格好をした人の最多数」の集団に囲まれるマッキンリー

「一番になりたいとか、何かしらの称号を手に入れたいとか、そういう望みを持つことは決して不自然なことではありません。ですが、残念なことに、誰もがウサイン・ボルトのように100mを速く走れるわけではありませんし、誰もがエベレストに登れるわけでもありません。」と語るマッキンリー。「『私はこれが得意だ』『私はホットドッグを食べるのが得意だ』『私はサイコロを重ねるのが得意だ 』と自分自身を見つめ直し、自分のスキルを見つけ、それを称えることが大事だと思うんです」

「オリンピックやワールドカップに出場できるのは世界人口のごく一部ですが、ギネス世界記録には、誰もが挑戦できるのです」

ギネス世界記録は、人々の夢を受け容れるのです。

多くの人は一度は夢を見るものです。

その夢が、1分間で最も多くの石鹸を積み上げることであろうと、ミスター・ポテトヘッドを組み立てる最速タイムを記録することであろうと、3分間で最も多くのエビを食べることであろうと、なぜそれをやってはいけないのか、なぜそれを称賛されてはいけないのか、それを決める権利は誰にもありません。

計測中のマッキンリーを見る、ベン・スティラー

私たちは皆、自分だけの特別な何かを持っていて、世界の誰よりもうまくやれるものを持っているはずなのです。

ギネス世界記録は、そういった人々にふさわしい称号を与え、スポットライトを当てて、『あなたはすごいんです!』と伝えるためのものです。

「誰もが得意なことを持っています。それを記録にすることができれば、その人を祝福することができます」と語るマッキンリー。

彼はまた、人々が「簡単だ」と思っている記録についての誤解を正すことに情熱を捧げます。

『バカバカしい 』とか 『くらだらない』とか言う人たちは、それをやったことがない方がほとんどですね。

「一見、最も馬鹿げて見えることでも、それを成し遂げるには、非常に緻密な計画と執念が必要なのです。私がいつも例に挙げるのは、「鼻でオレンジを1マイル(約1.5km)押した最速タイム|fastest time to push an orange one mile with the nose」です。もちろん文字として見たときは、首をかしげてしまうような記録です」

「しかし、この記録を持つアシュリタ・ファーマンは、最もよく転がり、最も耐久性のあるオレンジの種類を調査し、調達し、摩擦が最も少ない最適な路面を見つけました。この記録の舞台裏には、とんでもない時間と情熱が捧げられているのです。ですが、それを知らない人々は、この記録を見て、「鼻でオレンジを押すだけだろう」と一笑します。実際に記録に挑戦することは、相当な努力と覚悟が必要なのです」

マッキンリーは、「簡単に記録を更新できる」と自信満々に宣言した人が、最初のハードルで挫折するのを目の当たりにしてきました。

アマゾン川を初めて歩いたエド・スタッフォードに公式認定証を贈呈するマッキンリー

A League of Their Own のクリスマス特番の現場で行った「3つのミンスパイを食べた最速タイム|fastest time to eat three mince pies」の挑戦では、フレディ・フリントフ、ジャック・ホワイトホール、ジェイミー・レッドナップの3人はミンスパイを1個しか食べることができなかったのです。

そして彼は、自分でさえも、記録をテストしながら、才能ある記録保持者たちが作り上げた基準に近づくことさえもできなかったと認めています。

認定員のトレーニングで、マッキンリーは、認定員の監視の目を試すために、わざとズルをしてみようとしたことがあると言います。

が、「不正するどころか、しようとする隙さえも与えられなかった」と、告白するマッキンリー。

「30秒間にゴルフボールの上に立ったゴルフティーの最大数(most golf tees stood on golf balls in 30 seconds)の挑戦で、2つほど立たせてから、わざと両手を使ってルール違反をして、誰かがそれに気づくかどうか確認するつもりでした」

ミンスパイを3個食べる最速記録を持つリア・シャトケバー

「ズルをするどころか、1回も立たせられなかったんです!」とマッキンリーは振り返ります。「記録の内容を文字で追っていたときは、ズルの再現も簡単に再現できると思っていました。しかし、ストップウォッチというプレッシャーが原因なのか、とにかくそれどころではない状況になってしまいました」と続けました。

マッキンリーはギネスワールドレコーズに10年間在籍しており、最初は自分が参加したシアターの認定員として訓練を受けました。

現在は社内の記録管理部で大規模なチームを管理しているため、以前ほど認定員のユニフォームを着ている時間は長くありません。

ですが、彼にはたくさんの思い出があり、認定員として、世界の大スターたちと肩を並べたこともあります。

3分間で最も多くの自撮り写真を撮った記録を保持していたザ・ロック

ドウェイン・"ザ・ロック"・ジョンソンやテイラー・ロートナー、クリスティアーノ・ロナウドが挑戦した「3分間で自撮りした最多数|most selfies in three minutes」(最近ではボリウッドスターのアクシャイ・クマールが更新)の認定を担当したマッキンリーですが、彼の印象に残った記録はそれだけではありません。

「今まで見た中で信じられなかったことの1つに、「トラックとトレーラーによる最長のランプジャンプ|longest ramp jump by a truck and trailer」があります」とマッキンリーは振り返ります。

「HGVローリーがランプから飛び出すだけでは物足りないと言わんばかりに、F1カーまで並走したんです。ローリーが無事に着陸したときに皆々が出した安堵の吐息の残響は、今でも耳に残っています」

また、彼はこうも続けます。「私の好きな記録のもう1つは、「ブライダルブーケをキャッチした最多数|most bridal bouquets caught」です。この記録が認められるためには、あらゆる証拠物を提出する必要があります。審査中、新郎新婦の陳述書全てに目を通しましたし、各結婚式でのビデオもみました。最後には、彼女が何回も人々を押しのけてブーケを手にするという、まさに驚きのシーンをみました」

あの記録を見ると幸せな気持ちになります。

ブライダルブーケの最多捕獲記録保持者、ジェイミー・ジャコンさん

ギネスワールドレコーズが「真面目な」記録だけを審査していたというのは、全くの誤解です。私たちは昔から、どんなに珍しいことだろうと、人類のあらゆる努力を記録してきたのです。

1955年の創刊以来、喫煙パイプに火をつけ続ける最長記録、ロッキングチェアでの最長「ロッカソン」、氷上での樽ジャンプ、最も多く生卵を食べた数、ポールスクワット(棒の上に座る)、最も長い口髭、59分でワイン40パイントを消費したスペインの男性など、その例は並べるとキリがありません。

安全衛生上の理由から、このような記録は現在では審査の対象にはなっていないことはお分かりいただけると思いますが、それでも、私たちは常に唯一無二を見つけ出すプロなのです。

マッキンリー自らも、幼い頃に遊んだ大好きなゲーム、『ハングリー・ハングリー・ヒッポゲーム(はらぺこカバさん)』を使った「ハングリーハングリーヒッポスをクリアした最速タイム|fastest time to clear a game of Hungry Hungry Hippos」という記録を作り出しました。

この記録は、個人、2人組、4人組で挑戦することができます。

ナイル・ロジャースとシックが最大のディスコボールを披露した現場のマッキンリー

そして、その思いは、全ての記録の背景にある考え方を体現しています。

競技者は一度に1本の指しか使うことができず、空いた手はテーブルの上に平らに置くか、背中の後ろに回しておかなければなりません。

「ただ叩いて、素早くやるだけでは、競技になりません」

「このようなルールは、記録を標準化し、挑戦する全員が同じ条件のもとで行うことを保証するものです。つまり、挑戦は平等でなければならないということです」

もちろん、ギネスワールドレコーズの社員であるマッキンリーは、自分で記録を申請することはできません。

Yoshihiro Watanabe,Miyabi Kugimachi,Ameepy,Kotaro Kawai hold the record for fastest time to clear a game of Hungry Hungry Hippos (team of four)

しかし、もしできるとしたら、どの記録に挑戦するかは決めているというマッキンリー。

「「1年間に映画館で観た映画の最多本数|most films seen in a cinema in one year」に挑戦します。記録を積み重ねる器用さも、食べる記録に挑戦する胃袋も、運動する体力もありませんが、座って映画を観ることは得意です」

現在の記録は、なんと715本。もし彼が本当に挑戦するのなら、かなり細かくスケジュールを調整する必要がありそうです。